花たちの祝福

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 もはや坊の庇護者はおらず、食べる術を知らぬこの子はどうなるのだろう。  嘆きの母は、実は坊の側にいた。赤茶の着物を纏った姿で、何をすることもできないまま、彷徨い歩く坊の後ろをついていた。    「坊、坊」  母は体がないので、泣くこともできなかった。  躓いて転び、足をくじいて泣く子を抱きしめることもできなかった。  かあちゃんと呼び続けられて、ここにいるよと答えることもできないままだった。  母には、ひとつしかできることがなかった。    自分を求めて彷徨う子が進む先に、明るく輝く花を咲かせることしかできなかった。  坊は鼻をたらし、両手を前に突き出して、もうこの世にいない母を求めて走り回る。その滅茶苦茶な足取りの進む前に、母は、花を咲かせたのだった。  花は誰の目にも触れることがなかった。坊は、その花を見ることはなかった。  赤い花、青い花、黄色い花。  小さな優しい花たちが、泣きながら走る坊の道を一生懸命に飾った。坊が走れば走るほど、花たちは茂って道を示した。  だが坊は、花を見ることができなかった。  坊が見ているのは、戦の名残で燻る町、あちこちに倒れる無残な死体である。  かあちゃん。かあちゃん。  坊は未だ、母が自分を待っていると信じている。否、信じることに縋りついている。  そして、自分の進む道に次々に生えてきて花開く、優しい花々に気づかないのだった。  幼い足が傷だらけになって走る後を、母は無言で追っていた。  どんなに坊が泣いていても、どんなに坊がひもじくても、母の力でできるのは、やっぱり、坊の行く先に花を咲かせることだけだった。 **
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