D山の遭難事件 ――山の中で見た光――

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    「すっかり暗くなってしまった……」  昼間ならば心地よいハイキングコースも、黒い夜空の下では、心細さしか感じられない。  とはいえ、真っ暗ではなかった。左右に立ち並ぶ木々の存在はわかるし、私の進む先に獣道(けものみち)のようなルートが続いているのも、かろうじて見えていた。  暗闇に目が慣れてきた、というだけではないだろう。空は雲に覆われて月は完全に隠されているけれど、わずかな雲間に、ポツポツと星が(またた)いていた。感じられない程度のかすかな星明かりは、山の中まで届いているらしい。  そう、山の中だ。  一人で山登りに来た私は、道を間違えて、遭難の真っ最中だった。    
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