夏の声

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夏の声

暑い…… 暑…、 フローリングの上で寝てたら爆音みたいな蝉の声が響いて目が覚めた。 「……っ、は、」 エアコンがついているのに顔が熱くて心臓がばくばくしてる。 嫌な夢 思い出そうとしたけど何も覚えてなくてほっとした。 目じりに汗が溜まっててすごく滲みる、痛くて擦ってしまった。 「るいくん。…るいくん、居ないの?……あ、そっか」 今日は夜までバイトを入れてるから遅くなるんだっけ。 時計を見た。るいくんの帰宅まであと6時間。 るいくんと一緒にいるようになってから一人でいるのが前より怖くてたまらない。 喉が乾いて冷蔵庫のところに行ったら銀色のドアにメモが貼ってあった。 × × × × × まか 熱中症にならないようにエアコンつけっぱでいいから15分おきに水分摂れよ inゼリーあるけど食べれそうなら何でも食べていいよ 心配なことがあったら連絡入れて るい × × × × × ほんとは通話したい。声を聴きたい。メッセージでもいいから。 でも、これ以上るいくんに重いことしたらいけない。 邪魔しちゃいけないから我慢しなくちゃ。 僕が黙って我慢すれば、誰も困らない。 何も起こらないんだから。 「うぇ…っ、…ぅぐ」 麦茶に氷を入れたせいか、胃から冷たいものがせりあがってきてトイレに駆け込んだ。 「ごふっ、…ごほ……っ」 ばしゃ、と少し濁った嫌な音がした。 涙も一緒に出てきて、でも何も考えないようにして白い便器の蓋だけを見る。 そのまま吐瀉物を流した、けど 喉がまだひくひく震えて吐き気が止まらない。 「は、ごほっ…、こほっ……、はあ、」 …今度は全部出たみたいだ。 床を汚さなくてよかった。 よごれたらきたなくなってしまう。汚されたくない。汚いのは嫌だ。きたない、 身体中がぞわぞわして歯を食いしばった。 「いった……」 腕を掻きむしろうとして思わず声が出た。 びりっとした後から、じんじんとした熱い痛みが酷くなる。 浅いけど開いたかな。 どうしよう、また血が出たら…… でも、るいくんが巻いてくれた包帯は白いままで、それを見て少しずつ息ができた。 「まかー、ただいま」 10:45 pm るいくんが帰ってきた。 帰宅の通話もしてくれたのに思ったより時間が早かったから、優しい顔を見て勝手にどきどきしてきた。 るいくんに「お帰り」って言いたい。 喉がひゅっと鳴っただけの僕に右手を軽く上げて、るいくんは洗面所の方に行ってしまった。 テーブルの上に、るいくんが置いたセブンの袋。 中をそっと覗いてみた。 るいくんの好きなもの。 あとは僕が好きだと言ったことのある、色んなものが溢れていた。 るいくん。 もう、手を洗ってるけど、何か、言わ、 「お、かえり、るいくん。何か、いっぱいあるね」 嬉しいのに噛んでるし。 こんなつまらない返事しか言えないのが恥ずかしくて、どきどきした気持ちはじくじくする痛みに変わっていった。 「んー?中、見てみ。今日暑かったやろー、…大丈夫だった?」 洗面所から戻ったるいくんが僕の頭をぽんぽんして、それから目を伏せた。 え、どうしたんだろ。 視線の先は僕の白いままの包帯で、るいくんはそっと手を握ってくれた。 血は止まってるよ。大丈夫。 ありがとう、それと、 「そうだ、inゼリー。食べたよ。全部」 「まじか。やったじゃん」 4時間かかったけど、レモン味を完食できたよ。 るいくんが「今度は何味にしよっか」と言って、笑った。
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