1人が本棚に入れています
本棚に追加
追いかける
お昼前に里を出て、森の中をひたすら進んでいると時刻はもう逢魔時。昼と夜の境い目であるこの時間から鬼は活発になるので警戒が必要だ。
一行が足を止め、野営地を確保しようという話を始めたその時だった。茂みが大きく揺れ、小鬼がひょこりと顔を出す。人間の3歳児程度の大きさの鬼だが、ここで討たねば後の災いになるので双刀を抜いて構える。
すると小鬼は「ギャッ!」と悲鳴の様なものを上げて駆け出した。追いかけようとしたその時、腕をぐんっと引っ張られる。
「もう直ぐ夜になる、深追いは止めとけ。俺らは鬼共と違って夜目がきかないからな」
ぼくの腕を引きながらそう昴さんは言う。それは正論なのだが、みすみす逃すのは釈然としない。
「それに、あの小鬼が逃げて行った方向にあるのはイザヨイの里だ。里には結界が施してあるし、万に一つそれが破れる様なことがあっても月音がいるから大丈夫さ」
昴さんは腕を放してくれたが、ぼくは今までにない胸騒ぎを覚えていた。
胸の中をぐるぐると不安と焦りが渦巻いていて、あの小鬼を追わねばならないといけない気がしたのだ。だから──。
「やっぱりぼく、追いかけます!」
皆の制止を振り切ってぼくは小鬼を追いかけ、もと来た道を引き返す。
暫く走っていると小鬼の背中が見えてきた、その姿を見失わないように追いかける。
追いかけられる鬼も必死だが、ぼくはそれ以上に必死だった。
こうして小鬼が辿りついたのはイザヨイの里だったのだが、小鬼は赤鳥居を簡単にくぐり抜けていく。3年前の故郷、いや地獄を思い出して体が冷たくなった。
最初のコメントを投稿しよう!