美しき討鬼師

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美しき討鬼師

 倒れ、そして死んでしまった鬼を唖然と見つめる。 「おー、相変わらず良い手際じゃのう月音(ツキネ)ちゃん」 「お見事、天晴じゃ!」  爺さま達の声で我に返り顔を上げると、そこにはが立っていた。  藍色の長く豊かな髪に三日月の髪飾り、薄紅色の振り袖に青い群青の袴、足元は編み上げブーツ。薄化粧が施された顔は天女の様に美しいが、手にするのは鬼の血を滴らせる武骨な太刀(たち)。 「星、大丈夫かしら?」  鈴を転がすような声でぼくを心配してくれるのはイザヨイの里最強の討鬼師・月音センパイだ。 「あら、顔に泥がついているわ。かわいい顔が台無しよ」  センパイは刀についた血を振るって納刀すると、懐紙でぼくの顔についた泥を優しく拭い取ってくれる。 「星、お前はまだまだ半人前の娘っ子じゃ。月音ちゃんを目標にして励むのじゃぞ」  (オボロ)爺さまにそう言われ、ぼくは改めて月音センパイを見つめる。  センパイは強く、美しく、そして心優しい。その昔、鬼に最愛の両親を殺されたセンパイは悲しみに暮れる間もなく太刀を手にしたのだ。  討鬼師として、人として、センパイとして、そして同じ女としてぼくは月音センパイのことを尊敬している。……でも尊敬しているだけじゃないんだ。 「月音センパイはぼくの目標だけど、ゴール地点じゃない。今はセンパイの背中を必死に追いかけることしか出来ないけど、いつか追いついて、そして追い抜いて──里一番、いや国一番の討鬼師になるんだ!」  そう言うと、学者の爺さま達は笑う。 「足を滑らせて転ぶ新米討鬼師がそれは大きく出たものじゃ!」 「まずは鬼を前にして震えぬようにすることじゃな!」  羞恥で体がカッと熱く、顔に血液が集まるのが分かる。爺さまたちが言うことに何も言い返せないのが悔しい。……でも、皆が笑う中でセンパイは── 「わたくしも星がいつかは隣で戦ってくれることを望んでいるわ。そしていずれはわたくしなど置いて強く羽ばたいて行くのでしょうね」  優しく微笑んでぼくの頭を撫でてくれた。
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