イザヨイの里

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イザヨイの里

 幾重にも連なる赤鳥居の先に広がる里、それがイザヨイの里だ。人口は千人にも満たないが、この国の里の中では大層栄えている。その理由はこのイザヨイの里が討鬼師発祥の地であり、討鬼師達の総本部があるからだ。  鬼の生態調査から戻ると、爺さま達は直ぐ様研究所へと向かう。ぼくと月音センパイは帰還の報告をしに総本部へと赴く。  まるで神宮の様な大きくて立派な建物に入ると、亜麻色の髪をボブカットにした色白で泣き黒子がチャームポイントの妖艶な受付娘・夜空(ヨゾラ)姉さんが声をかけてきた。 「お帰りなさ~い、月音ちゃんに星ちゃん。お爺ちゃま達のお守りお疲れ様。今回の生態調査はどうだったかしら?」 「はい、一丈ほどの鬼1体と交戦し討ち取りましたが、皆怪我もなく無事に戻って参りました。調査結果は後程お爺さま方が詳しいものを上げるでしょうが、鬼共がにしていた洞窟を見つけました」  月音センパイの言葉をぼくが継ぐ。 「しかも洞窟の中で火を起こして獣を焼いて食べた痕跡があったんです! 爺さま達は鬼にも知性があると言っていたけど、ぼくは信じられません!」  夜空姉さんはぼくの方をちらりと見ると口元を隠して笑う。 「星ちゃん、戦装束が残念なことになってるわね。早く温泉に入ってきなさい」 「うっ……はーい、」 「月音ちゃん、戻って来て早々悪いのだけどアカツキの里まで行商人さん達を護衛してもらえる?」 「はい、お任せ下さいませ」  夜空姉さんへ頭を下げてから歩き始めた月音センパイを追いかける。 「センパイ、ぼくも連れて行って下さい! アカツキの里はぼくの故郷です、きっとお役に立ってみせます!」  センパイは振り返ると、スッとぼくの足元を指差す。 「星、まずは湯につかりその挫いた足を治すことに専念なさい。その様な足ではわたくしに追いつく前に鬼に殺されてしまうわ」  ぼくはその指摘にハッとすると、それ以上何も言えず大人しく月音センパイを見送ることしか出来なかった。
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