詩「冬の朝」

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冬の朝日は透過するハチミツだ とろみの中に淡い熱を抱きつつ わずかな海を感じさせる それは慰めかもしれない わたしたちは受刑者だ サビた鎖が過去を縛るように 寝起きの頭は未来を束ねる 細い線が光の中に消えていく ご飯を催促する猫の鳴き声が遠くに聞こえて 楽しかった思い出はモツ煮込みのように混濁  する わたしたちはどうしても起き上がれないまま 再度ハチミツに溺れていく 明るい酸欠だ クラクラもフラフラも同じようなもの 誰も自転の速度に文句など言わないし 誰もグラグラの大地に安定など求めない 眠ろう もう少しだけ わたしたちはいま貝に生まれ変わる 貝に生まれ変わってようやく本当の家族にな  っていく もはや部屋の輪郭はドロドロに溶け 繋いでいた手は一つになって 家族の本当のあり方に疑問を呈する 重力は心地のいいプレッシャーか それは光のように 黒い影のように 一瞬の自由はまるで悠久のオアシスだ 猫がフワフワの尻尾を顔にこすりつけていく それでも海は冷めない 熱は失わない 突然のビッグバンにも わたしたちは毎朝夢を見る 毎朝起きるという夢を見る この世界のすべては黄金色で光しかないから 崩壊する現実的平衡感覚の中 重力すらとろけるように 地球の回転に追いすがるように また今朝もハチミツのような涎が垂れる
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