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敷かれたレールはどこにあるのだろうか。
俺はきょろきょろしながら街を歩く。
もう何年も敷かれたレールを探し歩いている。
春の気配がする。そんな浮き立つ季節も、俺はレールを探し歩いていた。
商店街の肉屋の角を曲がった時のことだ。
「あ」
青空のもと遠くに見えるのは、踏切。
俺は嬉しくなって足早にそこへ向かっていく。
途中でカンカンカンと警報器が鳴った。一拍遅れて遮断機がゆっくりと下がってゆく。
踏切に辿り着くと、俺は電車が通り過ぎるのをほっとした気持ちで待った。
ゴオ……と風を巻き起こし電車が去ってゆく。あとにはどこまでも続く線路が残った。
線路の中に立ち入り、レールの先を見晴るかす。気持ちいいくらいにレールは真っ直ぐに伸びているが、先は見通せないほどはるか彼方だった。
俺は敷かれたレールの上を歩き出す。
ーーもう、何も考えたくない。
ーー敷かれたレールの上だけを歩いて行きたい。
温かい風が頬をなぶる。見上げれば蝶々がひらひらと飛んでいる。
去ってゆく蝶を追いかけたい気持ちがわずかにわいたが、それでも顔を前に戻しレールの上を歩いてゆく。
その時間はゆったりと流れ、心地よかった。世間の喧噪からは解き放たれた場所に、このレールはあると思った。
時折電車がやってくる。その時だけはレールの上からわずかに外れて轟音が通り過ぎるのを待つ。それさえ注意していれば、このレールの上は快適この上なかった。
どれだけ歩いたことだろう。レールがカーブに差し掛かった。
そのカーブを曲がる。
「え」
そこは終点だった。
その奥には、ただ青空と大地の緑だけが広がっていた。
俺は仕方なく終点の駅に降りる。
これから何をすべきかわからない。
レールはどこまでも続いてくれるわけではなかった。
結局は自分で考えなければならないのだ。
ホームのベンチに腰掛けて、空を見上げる。
蝶々がひらりと飛んでいた。
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