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恋患い・前編
われわれ、便利屋花丸キュウ微商会に不穏なメールが届いたのは、暑い夏のやっと過ぎ去った十月初めのことだった。
普段から便利屋としてほぼNGなしで多岐にわたる仕事をこなす我々、花丸キュウ微商会だが、今回の依頼は異様であり、不可解であり、危険を感じざるをえないのだった――
なお、社員は三名であり、彼らはそろいのグレーの作業着を着用している。
その社員とは、一応上司の佐野嶋一雄(本名サノッチ・サラツヤ超ロングストレートヘア・分厚いパッツン前髪で顔の半分が隠れている)、福田ノブオ(アラフィフ・髪は薄め・メガネ着用)、福田ジュンジ(アラサー・どこにでもいそうな感じ・オカルト好き)の三名である。
補足すると、ノブオとジュンジは親族関係になく、たまたま同じ名字なだけである。
また佐野嶋一雄に関して、彼は魂を入れられた等身大人形であり、元の名はサノッチである。仕事の都合上、サノッチではよくないだろうということで佐野嶋一雄を名乗っているのだ。
それから、彼らは同期入社である。
万が一、彼らについての詳細を知りたいという奇特な方がいらしたら、先のシリーズ「ピンクの世界で!!‐座敷ハタチと淑女の馴れ初め‐」「追憶の俺たち」を読んで頂けたらと思う……が、読まなくて全然、大丈夫だよ。
さて、今回の本題である“不穏なメール”についてだが、最初にメールを開き、目を通したのはジュンジだった。
パソコンの前に座るジュンジは、傍らに立つノブオにメール内容を説明している。
二人とも険しい顔つきだ。
そんな二人のもとへやって来たサノッチは問いかけた。
「ジュンジさん、改めて事の経緯を説明していただけますか?」
「あっ、はい……メールが届いたのは今朝なんですが、いつもの仕事依頼のメールとは雰囲気が違うというか……件名は“幽霊にとり憑かれたかもしれません。助けてください。”というもので、添付ファイルがありました。メールの内容はこれです……」
マウスをカチカチッと動かし、メールを開いたジュンジは文を読み上げる。
「ここ最近、写真や動画を撮ると青黒いというか、緑黒い人影のようなものが写ります。以前から写真を撮ると何度か写っていましたが、それはかなり昔のことで、フィルムカメラでたまに写真を撮っていたときのことです。スマホでよく写真を撮るようになると、毎度写るようになり、近頃では動画にも映るようになりました。さすがに、こうも毎回となると怖いです。助けてください……ということで、写真と動画が添付されているようです」
「ようです、ってジュンジ。確認してないのか?」
ノブオは、ジュンジの頭を見下ろしながら訊いた。
「いや、だって……怖いじゃないですか。呪われたりするかもしれないし」
「では、ちょっと……私が……」
ノブオとジュンジの間から、サノッチはパソコン画面に向けて手を伸ばす。
手のひらをかざして、しばし動きを止めた。
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