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父さんが遺した畑のことで僕らは大喧嘩した。僕はあの土地を離れたかった。畑は収穫を期待できるようなもんじゃなかったのに父さんは意固地になって耕してた。無理に無理を重ねて死んだけど、その畑を手放したくないと言うベンに腹が立ったんだ。だから荷物をまとめた。
――どこに行く!?
――こんな土地になんの価値があるんだよ! 僕は出てく!
――そんなこと、許さん!
――勝手にしろよ、僕はコロラドにでも行く!
とっさに出たコロラドは、多分寒いのが苦手な兄貴への嫌がらせだ。
そんな言い争いをして家を出た。バカげた怒鳴り合いで喉が渇いていた僕は、いつも行く小っちゃなバーに寄った。
コークを飲んでるうちにカッカしてた頭が冷め始める。電話をかけたけどベンはろくに話も聞かずに電話を切ってしまった。
またカッとなった僕は、乱暴に荷物を取り上げた。
その時、間の悪いことに酒癖の悪いティムとレイシーが女の子に絡んでいるのを見た。八つ当たりも手伝って僕はティムとレイシーをぶん殴った。
無様にひっくり返った二人は店中の人間に笑われて、車に乗った僕を追いかけてきた。
カーレースが続く。あいつらは勢いで後ろから車をぶつけてきた。よせばいいのに僕は車から下りて、またケンカになった。
手元も怪しくなってるレイシーが銃を出す。それを見て僕は走った。やたら大きく銃声が鳴る。狙いが定まんなかったんだろう、土に食い込む銃弾。
僕は足下を確かめる余裕が無かった。体が落ちていく間にもう一度銃声が響くのを聞いた……
「家と畑は?」
「売る。バカ臭いからな、一人であそこで年食ってくのは」
なんだか笑える。
「それ、僕が言ったセリフだけど」
「うるさい」
「で? オレゴン?」
「どこならいいんだ? ……それともこれを機会に離れるか。お前も一人前だし」
「オレゴンでいいよ! 葡萄作ろう」
「葡萄は難しいぞ」
「じゃヘーゼルナッツ。兄貴は商売っ気無いんだから取引は僕がやるよ」
「いいのか? 本当に」
「僕は兄貴と一緒にいたい。先のことはまた考えればいいさ」
僕の頭の中の休暇は終わった。長い道のりを越えて僕も変わったんだ。
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