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長いドライブに、僕は何度もうとうとしていた。外はもう真っ暗だ。
「今どの辺りですか?」
「ユタを抜けてネバダを抜ける」
座りなおした。目的地、変わった?
「コロラドは?」
「やめた。寒すぎる」
「じゃ、どこに?」
「オレゴン」
呆気なく変わった行先は気候の穏やかなオレゴン。
「目的は? こんなに簡単に変えるなんて」
「暖かいから」
その答えに吹き出す。
車がまたカーブした時に頭がクラっとして目を押えた。すかさずベンの手が僕の額を触ってくる。
「少し熱があるな。気持ち悪いなら車止めるぞ」
確かにむかむかしてる。
「ちょっと止めてもらってもいい? 外の空気吸えば良くなるかもしれない」
ほとんど振動もなく、路肩にゆっくりと車が止まる。
「ありがとう」
ひんやりした夜空はとても綺麗で、星がクリアに見えた。静かな闇に零れてくる光たち。
その中を飛行機が飛んでいく。人口の動く光も、こんなに離れて見てればとても神秘的だ。たとえ前方の道が真っ暗な闇でも。
不思議なことに気づいた。僕に家族はいないんだろうか? 捜索願いが出ているかもしれない。こんな風に遠くに行ってしまっていいんだろうか?
「どうした?」
「僕の……」
「ん?」
「僕の家族ってどうしてるのかなって。もしかしたら探してるかもしれない。本当は警察にでも行った方が良かったんじゃないかな……」
「……出会った場所に戻りたいか? 警察ならこの先にもあるぞ」
少し考えた。
「一緒に行きます。あそこで当てもなく家族を探してもしょうがないだろうから」
「そうだな。お前、まだ何も思い出さないのか?」
川に落ちて流されて、そしてキャンプには4日いた。ずいぶん遠くまで流されたんだよな…… どうして? どうして川に落ちた? あれは……
急に落ち着かなくなってきた。
「男……」
「男?」
「誰かに追っかけられてたような……」
「顔は?」
「ぼんやりしてるんだ、はっきりしなくて」
「なぜ追われてるとか」
「他には分からないです」
それ以上思い出せないことが申し訳ないような気がした。
「無理しなくていい。車に乗れそうか?」
「はい、だいぶ気分も良くなったし」
「また休みたくなったら言えよ」
しばらく走ってまた止めてもらった。どうしてもクラクラする。
「モーテルを探す。ゆっくり走るから」
頷いて唇を噛んだ。どうやら本格的に具合が悪くなってきたみたいだ。
ようやく見つかったモーテルは看板がチカチカ点滅していて目を開けてるのが辛い。めまいが起きそうだ。
「部屋が空いてた。自分で歩けそうか?」
フロントに行ってたベンが戻ってきた。
「大丈夫、歩けます」
たいした距離じゃない。そう思ったのに2、3歩歩いて足が止まった。だめだ、足がグラッと……
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