21人が本棚に入れています
本棚に追加
目が覚めると外は明るくなり始めていた。
横を見る。しっかりと握った手はそのままに、ベンは椅子に座ったままベッドに頭を預けていた。疲れただろうに。
上着をかけてやりたいけどそしたらベンを起こしてしまう。僕は天井を見て、また外に目をやった。静かな朝だ。白い雲の間にところどころ青い空が見える。今日も道路は熱いんだろうか。ずい分長いこと歩いたもんだ。
ベンが身じろいだ。
「なんだ、起きてたのか?」
「おはよう、ベン」
じっと僕を見るその目が柔らかくなっていく。
「ああ、おはよう、ルディ」
「うん」
「オレゴンに向かうところだ。途中のこと、覚えてるか?」
「覚えてるよ。ベン、驚くくらい優しかった。ありがとう」
「まだ熱があるな。手が熱い」
慌てて握っていたままの手を離した。ベンがクスッと笑う。
「子どもの頃はこうやって手を握ってやったんだ、お前が眠れないとさ」
「そうだったね」
立ち上がって伸びをするベンに疲れが見える。
「ティムとレイシーだった」
「ああ、聞いた。あいつらがお前を追い回したってな。きっとそれで川に落ちたんだろう」
ここにいるいきさつを話してくれた。
「あいつら、他の連中にも声かけて消えたお前を探し回ってたのさ。話を聞いてすぐ連中のところに行ったよ。相当脅してやった。探し回った探したよ、お前のこと」
その声が冷たい。思わず『殺さなかっただろうね?』と聞きたくなった。ベンならやりかねない。
「諦めかけた時にお前を見つけた。けど俺のこと分かっちゃいないし、俺がやった腕時計を俺に差し出すし」
思い出して可笑しくなった。
「もうちょっとのんびりさせてやりたかったよ。お前記憶無くして幸せそうだった。素直だったしな」
「兄貴もね。すごく優しくて『いい人』だったよ」
レストランでのことを思い出して口元が緩む。違う人みたいだった。
あんなに大喧嘩したのに。ずっと僕を探してくれて、僕の記憶が戻るのをマザーロードを走りながらも無理をせずに待ってくれた。
「もうしばらくここにいよう。せめてお前の熱が下がるまでは」
いつだってベンは僕のことをこうやって見守ってくれる。それを思い出した。
最初のコメントを投稿しよう!