学園への勧誘

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 焦点の合っていない目で虚空を見つめているお母さんは、今の話すら聞こえていないようだった。  ちょっと、これ、本当に大丈夫なの? 「お母さん? お母さん!」  愛良が肩を揺らしながら呼びかける。  ちゃんと正気に戻るのか心配だったけれど、数回の呼びかけでお母さんはあっさり普段通りの様子に戻った。 「あ、あら? あたしボーっとしてた? 嫌だわ、お客さんの前で」  ホホホ、と誤魔化すように笑うお母さんを見て愛良と二人ホッと胸を撫で下ろした。  温くなったお茶を飲み一息つくと、お母さんは田神さんを見てこう言った。 「愛良の転入が決定事項だという理由は分かりました。でも、親としてはやっぱり心配ですし、愛良の気持ちを尊重してやりたいと思うんです」  その言葉を聞いた赤井は愕然とした表情を見せ、田神さんは“ほらな?”と言うように赤井に視線を送る。  その様子に赤井が掛けたという催眠は失敗したのだと思った。  でも、愛良の転入理由について信じ切れていなかったはずのお母さんが何故かあっさり納得している。  少しは催眠が掛かっているという事なんだろうか?  赤井と田神さんの会話の意味がよく分からないけど、とりあえずお母さんが喜んで愛良を差し出すようなことにならなくて良かった。  お母さんは愛良に向き直り、真剣に問いかける。 「愛良、転校は決定だって話だけれど、愛良はどうしたい?」  そんなの決まってる。  さっきと答えは変わらないよ。 「それでも嫌だよ。そんな訳の分からない学園、一人でなんて行きたくない」  そうそう、その通りだよ!
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