その手を取って向かうのは

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その手を取って向かうのは

 その日は普通の一日だった。  いつものように朝起きて。  いつものように学園へ行って。  いつものように針のむしろ状態になりつつも嘉輪達とそれなりの学園生活を送る。  そんないつもと変わらない一日。  でもその不変(ふへん)が壊されたのは一瞬だった。  本日の護衛でもある俊君と、一緒に帰ると言って共に下校する嘉輪と正輝君。  その四人で寮まで歩いて帰っているときだった。  愛良は今日は委員会の用事があるとかでまだ学園の方にいた。  愛良には零士が常にそばにいるし、私と違って味方は多い。  だから心配はしていなかったんだけど……。  なんの前触れもなく、十人ほどの男たちに囲まれた。  すぐに警戒するけれど、聞こえてきた声にドクリと心臓が大きく脈打つ。 「……聖良、迎えに来たぜぇ?」  語尾を伸ばすような、独特な話し方。  私を求める、会いたかった人の声。 「……岸」  緊迫した空気の中、私だけが警戒心を解いた。  本来なら喜ぶような状況じゃない。  岸やこの取り囲んでいる男たちは私をかどわかそうとしているんだから。  ……でも。  会いたくて、会えなくて。  このひと月ずっと求めていた人にやっと会えた。  そんな状況で嬉しいと思わないなんて無理な話だった。  引かれるように、岸の元へ足を進めようとすると俊君に腕を掴まれ引き留められる。  そうしてから、私はハッとした。  そうだ。  みんな理解は示してくれたけれど、あくまで私を守ろうとしてくれてるんだ。   それなのに彼らを(かえり)みることなく岸の元へ行くなんて……。
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