その手を取って向かうのは

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 岸が、強く腕を引き私を抱きかかえ走り出す。 「ったく、ホントお前は妹のことばっかりだな」  苦笑いを浮かべる彼に、私は少し寂し気な表情で伝えた。 「……だって、愛良は家族だもの。……絶対に私のことを必要としてくれる、家族だから……」 「聖良?」  今回のことで分かったことがある。  どうして私が愛良に固執(こしつ)しているのか。  妹思いではあるんだけれど、普通の妹思いより少し逸脱(いつだつ)していたように思う。  それでもその差は少しだったから、このまま何事もなく過ごしていたら気づかなかった。  でも、知ってしまった。  私が自身を求められることをどれだけ欲していたのかを。  その自分の欲を知って、気づいた。  私が愛良を必要以上に大事にしていたのは、家族である妹ならちゃんと必要としてくれると思っていたからだ。  そして実際に愛良は今まで私の思いに応えてくれていた。  必要以上に一緒にいたいがために、学校が分かれていても一緒に登下校したり。  私が愛良を大事に思うのと同じくらい、私を大事に思ってくれている愛良。  零士という大事な人が出来ても、私を気遣ってくれていた。  愛良自身もお姉ちゃんっ子ってところがあるのかもしれないけれど、それでも私に合わせてくれていた部分もあると思う。  いつも私以外が選ばれる。  あからさまなものはそこまで多くはなかったけれど、小さな出来事は確実に私の心に溶けない雪のように積もっていった。  私を選んでほしい。  私を必要としてほしい。  その気持ちに確実に応えてくれるのは家族だった。  両親がちゃんと私と愛良をそれぞれに愛してくれていたからそう思えたんだと思う。  それでも両親は私だけを選んでくれるわけじゃなかったから……。  だから、愛良に固執した。  確実に私を求めてくれる、姉思いの妹だから。  でも、愛良は零士を選んだ。  私を思って求めてくれるのは変わりないけれど、一番ではなくなった。  だからと言って私と愛良の絆が切れるわけじゃないから、今でも大事に思う。  でも、私を確実に一番に思ってくれる人がいなくなったと思ったんだ。
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