その手を取って向かうのは

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 私を抱く岸のシャツをギュッと掴む。 「岸……あなたは、私を求めてくれる? 一番に思ってくれる?」  少し、声が震えた。 「こんな、気持ちが重くて、可愛げもない女でも、好きでいてくれるの?」  岸なら、これほどまでに執着してくる彼なら、一番に私を求めてくれると思った。  でも、すべてをさらけ出しても同じように思ってくれるのかは自信がなかった。  だから、少し震える。  でも、岸はそんな震えも抑え込むように私を抱く腕に力を込める。 「なめんなよ? 俺のお前への執着はもっと重いぜぇ? あと、聖良は可愛いっての」 「っ!」  予想以上の答えに、胸がつっかえる。  思いがあふれて……。 「ありがとう……」  それしか言えなかった。 ***  連れられた先には車が停車してあり、岸と私は後部座席に。  他の男達二人が運転席と助手席に乗り込んだ。  発車して、学園の敷地から出てもこれで良かったのかなという思いは消えてくれない。  岸を選んだことに後悔はないけれど、みんなとの別れはやっぱり辛いものがある。  みんなごめんね……愛良をお願い。  車窓の外の景色を眺めながら思いをはせた。 「……聖良」  そんな私に、岸が呼び掛ける。 「ん?」  と彼の方に顔を向けると、顎を強めに掴まれた。 「っつぅ」  少し痛い。 「気持ちは分かる……って言ってやりてぇところだけどなぁ……」  明らかな不満顔が目の前にあった。 「お前が俺以外のやつのこと考えてるってだけで許せねぇんだよ」 「え? きし――んっ」  言葉は紡がせてもらえず、唇が塞がれた。
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