その手を取って向かうのは

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 ちょっ⁉  前には他にも人がいるのに!  そんな不満はすぐに岸の翻弄してくるキスによって押しのけられる。 「んっ……ふぁ……」  上顎や舌の裏、私の口の中の感じる部分は知り尽くしたとでも言うような岸の動き。  その動きに、思考はすぐに溶かされる。  岸のこと以外、考えられなくなる。  どれくらいそうされていたのか、時間すらも分からなくなったころやっと満足したらしい岸は唇を離した。  ニヤリと、意地の悪い笑みが浮かぶ。 「そうやって、俺のことだけ考えてればいいんだよ」 「……ん」  満足そうな岸の声に、私はもう少しだけ彼に浸っていようと思った。  ――けれど。 「悪いがな、お二人さん。もうすぐ目的の場所に着く」  助手席に座っていた男がこちらを見もせず話し出す。  声には苦笑いのようなものを感じ取った。 「目的の場所? ちょっと待て。聞いてた話と違うぞ?」  岸の声に警戒が宿る。  その様子に、私も浸っている場合じゃないんだと気づいた。 「いくらなんでも予定していた場所につくには早すぎるだろ。どこに向かってんだ?」 「月原家の別邸だよ。そのお嬢さんが余計なことしてくれたせいで予定が変更になったんだ」 「え?」  私のせい?  何かしただろうか? 「んだと?」  喧嘩腰な岸に、男はあくまで苦笑ぎみに話す。 「“純血の姫”を本物の“花嫁”の方に向かわせただろ? 下手をしたらまた取り返されてしまうからな……その子は保険だよ」 「保険?」  どういう意味だろう? 「……おい、それはどーゆー意味だぁ?」  岸の声がことさら低くなる。  怒りが滲み出ている様子に、私の戸惑いは強まった。
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