180人が本棚に入れています
本棚に追加
/495ページ
「“純血の姫”はあそこで足止めする予定だったってのに……その予定が崩れたから、予定を変更せざるを得なくなった」
「どういう意味だって聞いてんだよ⁉」
「おー怖い怖い。……そのまんまの意味だよ、“花嫁”が手に入らなかったときの代わりさ」
「っ⁉」
それって、つまり……。
「聖良を俺から奪おうってことかぁ?」
ふざけんなよ、と悪態をつく岸はもう怒りを抑えようとはしていなかった。
助手席に座る男を今にも射殺しそうな目で睨む。
私も、そんなのはごめんだと睨みつけた。
「別に奪うつもりはないさ。“唯一”を奪おうとするなんて普通の吸血鬼なら考えない」
「……」
普通じゃなければ考えるって風にも聞こえる。
だからそのまま警戒していると……。
「ただちょっと、貸してもらうだけさ」
「は?」
貸す?
って、私を?
まず私はものじゃないし、貸すってどういう……。
理解出来なくて首をひねっていると、察した様子の岸が殺気とも言えそうな怒りを表した。
「テメェら……ふざけんなよ……」
うなるように呟いた岸は、そのまま私を守るように肩を抱く。
「ふざけてないさ、本気だよ。……“花嫁”が手に入らなかった場合、その子には御当主の子を産んでもらう」
「なっ⁉」
思ってもいなかった言葉に開いた口が塞がらない。
「大丈夫、一人産んでさえくれれば解放するさ」
全く大丈夫なんかじゃない。
つまりは岸以外の人とそういうことをして、子供まで産めと言ってるんでしょう?
しかもその子供は放って岸の元へのうのうと戻れということ。
あり得ない。
最初から最後まであり得ない。
いっそめまいがしてきたけれど、そんな余裕もない。
最初のコメントを投稿しよう!