その手を取って向かうのは

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「“純血の姫”はあそこで足止めする予定だったってのに……その予定が崩れたから、予定を変更せざるを得なくなった」 「どういう意味だって聞いてんだよ⁉」 「おー怖い怖い。……そのまんまの意味だよ、“花嫁”が手に入らなかったときの代わりさ」 「っ⁉」  それって、つまり……。 「聖良を俺から奪おうってことかぁ?」  ふざけんなよ、と悪態をつく岸はもう怒りを抑えようとはしていなかった。  助手席に座る男を今にも射殺しそうな目で睨む。  私も、そんなのはごめんだと睨みつけた。 「別に奪うつもりはないさ。“唯一”を奪おうとするなんて普通の吸血鬼なら考えない」 「……」  普通じゃなければ考えるって風にも聞こえる。  だからそのまま警戒していると……。 「ただちょっと、貸してもらうだけさ」 「は?」  貸す?  って、私を?  まず私はものじゃないし、貸すってどういう……。  理解出来なくて首をひねっていると、察した様子の岸が殺気とも言えそうな怒りを表した。 「テメェら……ふざけんなよ……」  うなるように呟いた岸は、そのまま私を守るように肩を抱く。 「ふざけてないさ、本気だよ。……“花嫁”が手に入らなかった場合、その子には御当主の子を産んでもらう」 「なっ⁉」  思ってもいなかった言葉に開いた口が塞がらない。 「大丈夫、一人産んでさえくれれば解放するさ」  全く大丈夫なんかじゃない。  つまりは岸以外の人とそういうことをして、子供まで産めと言ってるんでしょう?  しかもその子供は放って岸の元へのうのうと戻れということ。  あり得ない。  最初から最後まであり得ない。  いっそめまいがしてきたけれど、そんな余裕もない。
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