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相対
車が止まった場所は山を下りて街とは正反対に向かった場所だった。
木々に囲まれた開けた場所に和風の邸宅がある。
「……月原家の別邸。一番近いところでいいのか? それこそすぐ追いつかれるだろ?」
車を降りて私の手を引きながら助手席にいた男についていく岸は、声音に警戒を含みながら話した。
「拠点を転々としながら移動して混乱させる腹づもりなんだよ。まあ、ここで“花嫁”を取り返されないかどうかであんたたちの処遇が決まるな」
頭だけ振り向きながら男は案外丁寧に説明してくれる。
「……大体、あの厳戒態勢の中どうやって愛良を連れ去ったの?」
少しためらったけれど、状況整理のためにも聞いてみた。
本当に愛良もここに連れてこられてしまったのか。
あの厳戒態勢の中出来ることとは思えない。
「ん? ああ……まあ、もう話してもいいだろう」
私が質問すると思っていなかったのか、男ははじめ驚きを見せたけれどちゃんと答えてくれた。
「以前その岸と同時に学園の敷地内にうちの者が入り込んだだろう?」
「あ……あのとき……」
愛良の方に出たという不審者。
でも、あの後でH生はみんな調べられたはずだ。
そう思ったけれど、どうやら根本から違っていたらしい。
「あのときV生の中にうちの者を忍び込ませたんだよ。時が来たら、内側から守りを崩してもらうためにな」
「V生に?」
誰も考えていなかった事実に驚きしか湧いてこない。
「一応作戦はうまくいったようだな。“純血の姫”があっちに向かったとさっき車の中でメールをしたら、了解の返事とともに作戦成功のメッセージが届いた」
「っ!」
ということは、本当に愛良はここに連れてこられたってこと?
「……愛良は、まだここにいるの?」
声が固くなる。
せめてここにいてくれれば嘉輪たちが間に合うかもしれない。
でも、男もそこまでは分からないようだった。
「さあな。着いてはいるだろうが……」
どうだろうな、と前を向いてしまった。
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