相対

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「……聖良」  そうすると、今度は岸が私に声を掛けてくる。 「お前はやっぱり妹を助けたいんだよなぁ?」  確認の質問。  私は当然とばかりにうなずいた。 「もちろんだよ」 「それでお前が危険な目に遭うかもしれなくてもか?」  答えなんて分かってるだろうに。  それでもわざわざ聞いてくるのは、私の身を案じてのことだよね。 「……遭わないよ。あなたが守ってくれるんでしょう?」 「ったく……それ、結構な無茶ぶりだって分かってんのか?」 「……ごめんね」  私のワガママに付き合わせてしまう形になる。  私を守ろうとしてくれる岸には、大変な思いをさせてしまうだろう。  でも、愛良のことは何があっても見捨てられない。  大事な私の可愛い妹。  姉思いの、優しい妹。  愛良の一番はもう私ではなくなってしまったし、その一番は愛良を死ぬ気で守ってくれると確信してる。  私の出る幕じゃないのかも知れないけれど、だからと言って見捨てる理由にはならない。  ただ、それはやっぱり私のワガママでしかないから……。  だから、岸には申し訳なく思う。  でも――。 「……いーよ。惚れた弱みってやつだ、付き合ってやるさ」  どっちにしろ今は逃げられないしな、と皮肉気に笑いながら続けた。 「ありがと……」  もう一度お礼を言って微笑む私の手を岸は強く握ってくれた。  こんな時だっていうのに、どうしようもなく岸が好きだと感じてしまう。  思えば、出会いは最悪。  初めはどちらかというと恐怖の対象だった。  二度目に会ったときは、私の友人を操ったり愛良を狙う月原家の人たちの協力をしていて、ハッキリ言ってしまうと敵。  恐怖が、怒りに変わった瞬間だった。  でも、同時に私の中の何かを呼び起こされたときでもあった。  強引に開かれていく唇。  それと一緒にこじ開けられた恋の種。  何より、自分でも気づかなかった私の心の溝を埋めてくれる言葉。
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