相対

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 思えば、あの瞬間から岸に惹かれてしまっていたのかもしれない。  無意識に強く求めていたものを与えてくれる相手として。  そして、その思いは会えない間に強くなっていたらしい。  静かに、降り積もる雪のように、確実に私の心を塗り替えていった。  そうして迎えた邂逅(かいこう)。  三度目のそれは、私が思っていたよりも強く、切なく、狂おしく……。  考える余裕なんてないくらい、すべてを持っていかれてしまった。  そして今。  思いを返すことが出来た私を岸は一番に考えてくれる。  私を守ろうとしてくれる。  好きで、どうしようもなく惹かれて……。  愛してると、言えるのかもしれない。  まだ言葉で伝えていないそれらの思い。  事が無事終わったら、すべてを伝えたいと思った。  そして、岸のすべてを受け入れよう、と……。  そんな決意をしながらも今は前を歩く男についていくしかない。  そしてついていって邸宅の中に入ると、奥まった場所にある一室に案内された。  そこで待っていた相手は――。 「こんにちは。もう会うことはないと思っていたのに……また会ってしまったわね?」  少し苦みを加えたような笑みを浮かべているのは、以前愛良を連れて行こうとしていたシェリーだった。 「……会いたくはなかったんですけどね」  軽く悪態をつくように言うと、「それはお互い様よ」と返される。 「今回はお前がこっちか……じゃあ、妹の方は御当主サマが直々に相手をしてるってところか?」  皮肉を込めたような岸の言葉。  その皮肉が何に対して言われたものなのかは分からなかったけれど、シェリーは苦々しい表情を見せた。 「……あんたには関係ないでしょう?」 「ま、そうだな」  と、岸はとぼける。  何の話なのか気にはなるけれど、今はそれを追求している暇はない。 「……愛良は、どこにいるの?」  正直、ダメ元な気分だった。  それでも聞かないわけにはいかなくて口にする。
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