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「今そいつが言ったでしょう? 御当主様のところよ」
「連れて行って」
「それで私が連れて行くとでも?」
はっと嘲るように笑われた。
ま、そうなるよね。
「それにしてもあなたは本当に妹のことばかりね。前もそうだったけれど」
そう感想を呟くと、今度は岸をあざ笑うように見た。
「相変わらずじゃない? 岸、あなたこの子の妹に負けてるんじゃないの?」
「負けてなんかいねぇよ。……お前と違ってな」
「っ! うるさいわね!」
シェリーの言葉に岸も嘲笑で返すと、シェリーは激高する。
「聖良はちゃあんと俺を選んでくれたぜぇ? お前の“唯一”と違ってなぁ?」
煽りまくる岸に流石に止めた方がいいかも知れないと思ったけれど、岸が放った言葉に驚きそっちに反応してしまった。
「“唯一”? シェリーにも“唯一”がいるの?」
思わず聞いてしまうと、岸が答えてくれる。
「ああ。今話している御当主サマがそうだよ。……正確には、御当主サマの“唯一”がシェリーだ」
「ん? どういうこと?」
複雑な様子に眉を寄せて首を傾げる。
そんな私に岸は簡単に説明してくれた。
「シェリーは元々人間だった。で、御当主サマの“唯一”だった」
シェリーが元々は人間だったということに驚いたけれど、とりあえずその驚きは押し込めて頷きながら続きを聞いた。
「それで何があったかは知らねぇが、シェリーは御当主サマの血を与えられて吸血鬼になった。……そうやって“唯一”が吸血鬼になった場合、そいつの“唯一”は強制的に自分を“唯一”としていたやつになる」
「……つまり、その御当主様とシェリーはお互いに“唯一”ってこと?」
私の理解があっているのかという確認のためにも聞くと、頷きで答えが返ってくる。
ということは……。
「“唯一”で両想い状態なのにその御当主様は愛良や私に子供を産ませようとしているってこと⁉」
なんてクズなんだと思いながら叫んでしまう。
「そうしようとしているのは彼じゃないわ!」
すると、今までため込んでいた怒りを解放するかのように怒鳴りだしたシェリー。
憎々し気に私を睨んでくるけれど、その憎しみは私ではない誰かに向けられている様だった。
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