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「あなた達に彼の子を産ませようとしているのは月原家の老害たちよ! 彼はただ、月原家を見限れないだけ……優しい人なの……」
怒りと憎しみを吐き出すように言い放つと、打って変わって優しく悲し気な表情になるシェリー。
その様子だけで、彼女がどれほど御当主様を思っているのかが伝わってきた。
胸がギュッとわし掴まれる。
どんなに想っていても、周囲が認めない。
その状況が少し私と被って見えて、同調せずにはいられなかった。
でも、だからといって私が出来ることはない。
その老害たちの思い通りにすることなんて問題外だし、悔しそうにしながらもそれに従っているシェリーに手を貸すことも出来ない。
「ま、それが分かったところでこっちが従う義理はねぇな」
岸は冷たく跳ねのける。
冷たすぎなんじゃ……とも思ったけれど、変に同情したところで出来ることはないんだ。
ハッキリ線引きするのもある意味優しさなのかもしれない。
「……従ってもらうわよ。“花嫁”との間に強い子供が産まれさえすれば、あいつらは文句を言わないと言ったの。……それ以外に方法がないのよ!」
シェリー自身全く納得していないようなのに、それしか方法がないという。
これじゃあこっちだってどうしようもない。
「……でも、従うつもりがないのならどうしてあなたはここまで大人しくついて来たの?」
少し感情を落ち着かせてから、シェリーが聞いて来る。
それに答えようとしたけれど、先に口を開いたのは岸だった。
「そりゃあ? こいつの望み通り妹を助けるためだな」
「それであなたの“唯一”が奪われるかもしれないのに?」
「はっ! んなことさせるかよ」
すると、シェリーは皮肉気に私達を見て笑う。
「……二兎追うものは一兎をも得ずってことわざを知らないのかしら?」
明らかな嘲笑。
「……知ってるわよ」
今度こそ、私が口を開く。
知っていても、分かっていても、譲れないものがある。
そのためにあがくことをやめたくない。
「でも、どちらも譲れないものならあがくしかないでしょう?……愛良はどこにいるの⁉」
「っ!……教えるわけないじゃない」
「じゃあ勝手に探すわ!」
言い放つと同時に私は岸の手を取って部屋を出ようとする。
すると、当然ながら止められた。
進行方向に私達を連れてきた男が立ちふさがる。
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