相対

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「まあ、予想はついてたが……。行かせるわけにはいかねぇよな」  苦笑じみた様子の男だったけれど、絶対に通さないという意志は感じ取れた。 「その“花嫁”もどきは戦えないから、二対一。岸、あなたにはどうにもできないわよ?」  諦めたら? とシェリーが笑う。  悔しいけれど彼女の言うとおりだった。  護身術程度は身に着けたとはいえ、吸血鬼である彼女達に私が敵うわけがない。  岸がどちらかを相手している間に、もう片方に捕まってしまうのがオチだ。  でも――。 「諦めることだけは出来ないよ」  そう言って、岸の手をギュッと掴んだ。 「んとに……わがままな“唯一”だよな」  苦笑気味に文句を言われたけれど、岸は私の手を握り返し頭にキスをしてくれる。 「でもそういう強さが、俺の心を震わせるんだ」  そうして手を離し、私を背にかばう様に前へ出た。 「とりあえず、やってみるしかねぇだろう?」 「無謀だな」  男はため息をつきつつ、岸の相手をするために構える。 「聖良、俺から出来る限り離れるなよ?」 「うんっ」  私も岸の邪魔にならない程度に離れつつ、でも手の届く範囲に位置する。  先に動き出したのは男の方だった。 「にらみ合っていても仕方ないからな。さっさと終わらせてもらう」  そう言って拳が岸に向かって行く。  岸はその拳を受け流し、男の懐に入ると腹に拳を入れようとして止められていた。  そこからの戦闘はよく分からない。  吸血鬼だからというのもあるんだろうけれど、早くて私の理解が追いつかない。  かろうじて互角の戦いをしているのかな?って分かる程度。 「諦めなさい。それに、本物の“花嫁”がこちら側の手に落ちればあなたはなにもせずに済むでしょう?」  押し付ければ良いのに、と勝手なことを言うシェリー。 「っ! 出来るわけないでしょう⁉ 大事な妹なのよ⁉」  叫ぶ私に、シェリーは冷たい目をしてフンと鼻を鳴らす。
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