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「大事、ね。そいつ……岸よりも?」
「っ⁉」
「あなたを守ろうとすればするほど、岸は傷つくわよ?」
「っ……」
言い返したくても、言葉が出てこない。
だって、それは事実だから。
でも、それでも私の代わりに愛良を犠牲にするなんて選択肢はあり得ない。
だから、やっぱり私の進む道は一つなんだ。
「岸に傷ついて欲しくはないよ……」
「だったら――」
「でも、愛良を犠牲にも出来ない!」
「……欲張りね」
呆れと嘲笑を含んだ表情。
私はそんなシェリーにハッキリと言ってやった。
「欲張りで良いわよ。どっちも譲れないから、あがいてるだけ。諦めて、老害だと言われるような人達の言いなりになってるあなたみたいにはならない!」
「っ! 言わせておけば……」
途端、目つきの変わったシェリーから揺らめくような怒りを感じた。
言いすぎたかもしれないと思ったときにはすでに遅く、気づいたときにはシェリーが目の前にいた。
平手でも打とうとしているのか、右手を振り上げている光景が静止画のように目に映った次の瞬間、強く後ろに引かれた。
そのまま抱き込まれ、シェリーたちから距離を取るように跳んで離れる。
「ったく、挑発してんなよ」
「ごめん」
岸の呆れの言葉に短く謝る。
「やっぱり、生意気な“花嫁”もどきには少し痛い目を見てもらわないと分からないみたいね?」
冷たい目。
無表情なのが逆に怖い。
わめきたてるよりも強い怒りを感じた。
「岸、お前も思ったよりやるじゃないか」
岸と戦っていた男がそう言って顔から笑みを消す。
そして、ポケットから折り畳み式のナイフを取り出した。
「得物は使いたくなかったが、あまり長引かせるわけにもいかないからな」
そして、二人は私達と相対して構える。
「……岸、これってもしかしなくても思った以上にマズイ?」
「はは……そうだな」
答えた岸の顔には笑みが浮かんでいるけれど、その笑みに余裕は欠片もない。
「お前を離さずに逃げ回るしかねぇだろ」
そう言って、岸は私をお姫様抱っこした。
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