相対

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「しっかり掴まってろ。離すなよ?」 「うんっ!」  逃げの一手となると確実にこっちが不利だろう。  でもそれしかない。  なら、逃げながら隙を突くしか方法はないってことだ。  岸が二人を避けるように横に移動した途端、彼らも動きだす。  先に近づいてきたのはシェリーの方。  彼女は主に私を狙って来ていた。 「人一人抱えながら逃げるなんて無謀よ! さっさと離して渡しなさい!」  岸に対してそう叫びながら、爪を立てて私を掴み取ろうとする。 「離すわけねぇだろ!」  シェリーの手から逃れるため跳んで距離を取ると、次には男が近づく。 「俺としては“花嫁”を傷つけたくはないんだがなぁ」  言いながら男の方は岸に向かって拳を振るってくる。  言葉の通り私を傷つける気は無いのか、ナイフを持つ手は使ってこない。 「ちっ!」  それでもやっぱり私を抱えたままでは岸が不利。  せめて隙を探るのは私が、と思うのに、そう簡単にはいかない。  でも男の方も決定打に欠けていたから、根気よく注視していた。  そして、先に隙を見せてしまったのは岸の方。 「っくっ!」  攻撃を避けた拍子にバランスを崩してしまった。  そこへ、男がナイフを持った手を私達に向ける。 「ダメッ!」  私はとっさに叫んで、男の手を弾こうと自分の腕を伸ばしてしまった。  バシッ!  伸ばした腕はナイフに傷つけられることはない。  なぜなら、男はナイフを持っていない方の手で私の腕を掴んでいたから。 「っ⁉」 「っおい!」  私が息を呑み、岸が怒りと焦りを含んだような声を上げたと思った次の瞬間。  ぐんっと私の体は岸から離れ投げ飛ばされた。 「きゃあぁぁ!」  叩きつけられたわけじゃないから落ちた痛みはあまりなかったけれど、勢いで数メートル引きずった。  引きずった痛みに「うぅ……」と呻いていると、上から頭を押さえつけられる。
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