相対

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「だから無謀だって言ったでしょう?」  嘲笑と共にその言葉が降ってきた。  髪を掴むように押さえられていたからかなり痛い。  でも、だからって大人しく捕まっているわけにもいかなくて……。  痛みに耐えながら少しでもと暴れると、何とか顔の方向だけは変えられた。  でも、そうして目に飛び込んできた光景は――。 「ぅぐふっ!」  わき腹にナイフを刺された岸の姿だった。 「っ――⁉」  息を呑み目を見開く。  信じたくない光景だけれど、大きく開いた目はその光景を映すのをやめてくれない。  嫌でも焼き付いた。 「ゃ……いやぁ!」  なりふり構わず岸のもとへ行きたかったけれど、吸血鬼であるシェリーの力には到底敵わず髪が数本抜ける音がしただけだった。 「うるさいわよ! 岸は吸血鬼なんだから、あれくらいの傷少しすればふさがるわ」  シェリーはイラついたように叫びさらに私の頭を押さえつける。  痛みと悔しさと悲しみで涙がにじんだ。  愛良を助けるためにここに来たことは後悔しない。  後悔するくらいならもっと前にしている。  でも考えずにはいられない。  もっと他に方法があったんじゃないかって。  この部屋につく前に……男一人だけの時に逃げ出しておけば……。  悠長にシェリーと会話なんてせずにさっさと部屋を出ようとしておけば……。  そうすれば、岸が刺されるなんてことにはならなかったんじゃないかって。  悔しさに唇を噛んだ。 「さ、こいつが動けるようになる前に“花嫁”を移動させとくか」  男がそう言って岸を放置し私たちの方へとゆっくり歩いてきた。  その途中で、ドォン! と屋敷中に響いたんじゃないかと思うほどの大きな音がする。 「な、なに⁉」  動揺するシェリー。  でも、男の方は「あーあ……」なんて声をもらして諦めに似た表情をしていた。  そしてメールか何かでも来たんだろうか。  男はスマホを出してしばらく画面を見つめていた。
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