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顔色が悪い、ということはないから聞いた通り体調は良いんだろう。
でも、明らかに気疲れしている様子。
私の顔を見て、その表情が少しだけ緩んだ。
「聖良……無事だな?……本当に、生きてるんだな?」
私の両頬を包み込み、確かめるように何度も確認してくる。
私は会えた喜びで胸がいっぱいで、「うん、うん……」としか返事が出来なかった。
ひとしきり質問した後、やっと私が生きているということを実感できたようできつく抱き締められた。
苦しかったけれど、でも離してほしくも無くて私も岸の背中に腕を回す。
監視はされているんだろうけれど、あからさまに拘束されているわけじゃなくて良かった。
そうなっていたら、こんな風に抱き合うことすら出来なかっただろうから。
互いの体温が分かるくらい抱き合ってから、少し力を弱めた岸がポツリと話し出した。
「聖良……俺はお前と離されてある街に送られるらしい」
「うん、聞いた……でもっ!」
離れたくない。
そう続けようとした言葉は紡げなかった。
「離れたくないな……」
同じ気持ちの言葉を口にしているのに、岸の表情は……。
「せっかく、手に入れたのに……」
優しく、でも悲しそうに……。
「今度こそ、離さないって思ってたのになぁ……」
諦めの顔をしていた……。
「いや……嫌だよ。なんで、そんな顔してるの?」
まるで、離されるのが仕方ないと思っているような表情。
私は諦めないって決めてるのに、どうしてあなたはそんな顔をするの?
すでに諦めているような岸が信じられない。
あれほど求めてくれていたのに、どうして? という思いばかりが浮上する。
その思いが、涙となって目を潤ませた。
「聖良……」
「嫌だよ。岸……どうして……?」
諦めないと言って。
そう願いを込めて見つめ続ける。
でも岸は悲しそうに微笑むだけだった。
「お願いだから、そんな顔しないで。岸」
「……俺も、お願いがあるんだが」
「え?」
私が願いを口にしていると、岸の方からも突然お願い事をされる。
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