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「呼び方。両想いになったんだし? 名前で呼んでくれよ」
「名前って……」
そんな、一緒にいることを諦めているかのような顔をしてするお願いだろうか?
まさか最後のお願い、なんて言わないよね……?
不審に思いながら見上げていると。
「もしかして、俺の名前知らねぇの?」
と、挑発するように言われた。
ムッとする。
そんな風に言われたら、呼ぶしかないじゃない。
「知ってるわよ……永人」
「ああ、聖良……」
名前で呼ぶと、とても……とても幸せそうな笑みが浮かぶ。
でも、今の状況だとその笑顔ですら悲しく思えて……。
胸がギュッと苦しくなった。
「永人……」
もう一度名を呼び、涙が滲む。
そんな私に、岸は――永人は語りかけた。
「もっと呼んでくれ、聖良」
片手がまた私の頬を包み、顔が近づく。
キスされるんだと分かった。
普段だったらみんなが見ているからと拒否するところだけれど、今この瞬間の逢瀬しかないというならば受け入れたい。
まだ、諦めて欲しくないと願っているけれど……このキスを拒む理由はなかった。
そして唇が触れる直前、ひそやかに語られる。
「そうして名前で呼んでくれる限り、俺はお前の望むとおりにするから……」
「え――っん」
聞き返そうとする言葉は、永人の唇に押し込められた。
今のはどういう意味?
そう聞きたいのに、キスは深くなるばかりで……。
「んっんんぅ⁉」
違う。
深いというより、完全に塞がれている。
キスをされながら鼻だけで息をするのも限界がある。
それなのに、永人は私の鼻をつまむように手を動かした。
「っ⁉」
何⁉ 何なの⁉ 窒息させたいの⁉
永人の行動の意味が分からなくて混乱する。
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