主従の契約

10/13
前へ
/495ページ
次へ
 何がしたいの⁉ と心の中で叫んでいると、舌の上に何か硬い感触を覚えた。  永人はそれを喉の奥へと押しやってくる。  飲み込め。  そう言われているんだと判断した私は、息苦しさもあって自分から喉の奥へとそれを移動させた。 「……おい、何をしてるんだ⁉」  そんな田神先生の声が聞こえたと同時に、私はそれをゴクリと飲み込む。 「っぷはっ!」 「よし、飲んだな」  やっと鼻から手を離し唇も離した永人は、いつもの意地の悪そうな笑みを浮かべて満足そうに言った。  何? 何だったの?  先ほど飲まされたものが、私の中で温かく溶けていくような感じがする。  これ、何だったの?  永人の腕に抱かれたまま息を整えている私は、ただ疑問を募らせた。  その間に周囲が色めき立ちながら話し始める。 「おい岸! お前今なにをした⁉」  田神先生が近づいて来て永人の肩を掴む。  そんな田神先生を小ばかにしたように、ニヤリと笑う永人はとんでもないことを口にした。 「何って……聖良に俺の血の結晶を飲ませたんだよ」 「なっ⁉」  永人の言葉に、田神先生だけじゃなくこの部屋にいるすべての人が騒めく。  血の結晶を……飲ませた?  血の結晶って、確か吸血鬼本人と言われるもの。  作り出すのに一か月はかかるって聞いたけど……。 「そんなものをいつの間に⁉」  同じことを思ったらしい田神先生が問い詰めると、永人は何でもないことのようにしれっと答えた。 「そりゃあひと月ほど前から? 月原家で儀式のことを聞いてから、あればいざというとき使えそうだと思ってよぉ」  出来たのは昨日だからちょっとギリギリだったけどな。とも付け加えていた。  ってことは本当に血の結晶を飲まされたの?  血の結晶ってことは血婚の儀式?  ……いや、違うか。  血婚の儀式は相手、つまり私の血を混ぜなきゃならない。  ということはもっと前、大元になったっていう……。
/495ページ

最初のコメントを投稿しよう!

184人が本棚に入れています
本棚に追加