184人が本棚に入れています
本棚に追加
「主従の儀式か……」
田神先生が悔し気に呟く。
そうだ。
ハンターが無理矢理奪って飲み込んだという隷属の儀式とは違うから、主従の儀式ってことになる。
私が主で、永人が従う側。
「でも、何でそんなこと……」
やっと息も整って来て疑問を口にする。
今それをする意味があるんだろうか?
私の疑問に永人は腹が立つほど得意げな顔で答えた。
「血の結晶にまつわる儀式は吸血鬼にとって本当に特別なんだよ。血の結晶は作り出した吸血鬼、本人そのものと言って良い。それが主の体の中にある。つまりは、引き離すことは絶対に出来ねぇ」
吸血鬼にとって血は特別な意味を持つ。
今のお前なら分かるだろう? とニヤついた顔で言われた。
確かに分かる。
分かってしまった。
吸血鬼にとって、吸血鬼の血そのものが特別なんだ。
なんて言うんだろう……?
誇りを持っているっていうのに近い気がする。
それにもっと強制力が加わったような感じ。
自分の意志では抗えないほどの誇り。
それゆえに、主従の儀式は絶対。
吸血鬼なら、その抗えない誇りゆえにその主従を引き離すことが出来ない。
「でも、私達が一緒にいることを反対しているのはハンター側もだって……」
嘉輪の話を思い出しながら言う。
確か、特別になってしまった私に永人はふさわしくないとかなんとか……。
「そっちは大丈夫だろ。反対って言ってもどちらかというとって感じみてぇだったし? 全員が反対なわけじゃないみてぇだからなぁ」
上層部の決定は大体多数決だから大丈夫だろうとのことだった。
「……なるほど」
私が納得の声を上げると、同時に永人の肩から田神先生の手が離れる。
チラッと見ると、ショックなのか愕然とした様子だった。
田神先生は私達を引き離したかった方なんだね……。
少し悲しく思いながら視線を永人に戻す。
にやけた、満足そうな顔。
さっきまでの悲しそうな諦めきった微笑みは欠片もない。
最初のコメントを投稿しよう!