主従の契約

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「……ってことはさっきまでの態度は……演技?」 「まぁな。肝心な部分で邪魔されちゃあ元も子もないからなぁ。油断させねぇと」 「そう……」  その演技に私も騙されてたってわけか。  ……。  ……ふふ。 「本当は諦めてなんかなかったんだね。離れるようなことにならないみたいで良かった。ありがとう永人」 「ったりめぇだろ? 俺の執着なめんなって言っただろうが」  笑顔でお礼を言うと、抱き締める腕に力を込めてそう言われた。  好きな相手に抱きしめられて嬉しい。  離れ離れにならずに済みそうで嬉しい。  嬉しい……けど。 「永人、一回離れて腰を落として、歯食いしばって」  ニッコリ笑って命じた。  主としての命に、口ごたえする暇もなく永人は私から腕を離しグッと歯を食いしばる。  でもその目は私の突然の命令に驚いていた。  そんな彼から大きめに一歩離れて私は構える。 「永人と一緒に居られて嬉しいよ。……でもね」  と、笑顔から一変してまなじりを釣り上げた。 「忍野君といいあんたといい、勝手になんてもの飲ませてくれるのよぉ!」  叫ぶと同時に、さっきまでにやけていた顔面に拳を入れる。  鬼塚先輩に教わっていた正拳突き。使いどころがあって良かったな。  なんて考えながら。 「ぐはぁっ!」  でも、すぐに後悔することになった。  だって、殴った岸が壁の方にまでとんで行ってしまったんだもの。  壁に当たってズルズル床に落ちる様子に、室内がシンと静まり返る。 「……え?」  そんな静かな空間で私の声がやけに大きく聞こえた。  数拍後、「お、お姉ちゃん……?」という愛良の戸惑いの声が聞こえてきて、次に「聖良……」と嘉輪の呆れた声が私にかけられる。 「あなた、自分が純血種の血を受けて吸血鬼になったってこと忘れてない?」 「え?」  軽く振り返って困り笑顔を浮かべている嘉輪を見た。 「血を受けただけで純血種と同等になるわけじゃないけれど、それでも他の吸血鬼よりは強い存在なのよ?」 「……え?」  吸血鬼の血の力みたいなものは感じるから吸血鬼になった自覚はある。  でも、他の吸血鬼とそこまで差があるとは思っていなかった。
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