主従の契約

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「しかももう完全に動けるようになったみたいだし……。思い切り殴ったらこうなるのは当然ね」  最後にはそう言って呆れのため息をつかれてしまう。  ……つまり、今のこの状況は紛れもなく私がやったことってわけだ……。 「っ! ごめん永人!」  理解すると流石に罪悪感の方が勝る。  だって、仕方がないとは言え騙されて血の結晶を飲まされたんだ。  少なからず腹は立つし、その分くらいは痛い目見てよって思って殴った。  その程度の気持ちだから、こんな明らかにケガをするような正拳突きをするつもりなんてなかったんだもの。  駆け寄ると、永人の意識はちゃんとあった。  回復もしてきているようでパッと見は殴った部分が少し腫れている程度に見える。 「だ、大丈夫?」  近くで声を掛けると、少しムスッとされた。 「はぁ……俺より強くなってるとか……俺、カッコ悪ぃじゃねぇか……」  怒ってはいないみたいだったけれど、何だか落ち込ませてしまったみたいだ。 「い、いや。でも頼りにしてるよ?」  なんて慰めの言葉を掛けてみたけれど今は届かないみたいだった。  そうしていると、「くはっ!」っと噴き出すような声が聞こえる。  見るとそれは鬼塚先輩だった。 「ここで俺が教えた正拳突きとか……聖良、お前最高」  この状況で私が正拳突きしたことがかなりツボに入ったのか、鬼塚先輩はそのまま一人で大笑いし始める。  その笑い声が響く中、私は途方に暮れたように室内を見回した。  田神先生や他の大人たちは苦みを帯びた表情。  愛良や嘉輪は呆れつつも「良かったんじゃない?」という感じの笑顔。  H生は私よりも鬼塚先輩を見てドン引きしている。  婚約者候補の人達は複雑な表情をしつつも「良かったな」という雰囲気。  ただ、その中で忍野君だけが何故か青ざめていた。  どうしたのかと見ていると視線が合って、ビクリとされる。  そのままそろそろと視線をそらされ、ススス、と石井君の陰に隠れられてしまった。  ん? もしかしてこれ怖がられてる?  殴ったとき忍野君のことも言ったから?  いや、こうなるの分かってて殴ったりはしないから!  内心突っ込みつつ最後に零士を視界に映す。  分かってはいたけれど、零士は今の状況なんて本当にどうでも良いんだろう。  愛良しか見ていない。  どこまでもブレない零士はもはや驚嘆の域に達していると思う。  そうして永人に視線を戻すと、彼は「いてて……」と顔を歪ませながら鼻の辺りを押さえていた。  それに対してまた「ごめんね」と話しかけながら考える。  永人と離れずに済みそうで良かった。  でも、永人より強くなってしまった上に彼を従わせる主になってしまった。  好きな人を従わせるとか、私そんな趣味無いんだけどな。  さっき命令したことは棚に上げつつ、そう思う。  色んな不安を抱えつつも、とりあえずはハッピーエンドなのかな? と、自分を納得させたのだった。
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