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「愛良、おめでとう。良かったね」
とは言え、気楽な祝いの言葉を交わし合う時間になっただけとも言える。
田神先生はすぐに部屋を出て行ってしまったけれど、見守っていた私達は残ってそれぞれ愛良に「おめでとう」と話しかけるために残っていた。
「ありがとうお姉ちゃん」
幸せそうな笑顔でお礼の言葉を口にした愛良はいつも以上に可愛く見える。
「……零士も、まあ……おめでとう」
嫌々なのははたから見ていても分かるだろうってくらいの態度だったけれど、一応お祝いは口にしておく。
なのに零士は……。
「お前から言われるとか気持ち悪ぃ。嫌なら言わなくてもいいんだぞ?」
不機嫌そうにしたとしても「ありがとう」と素直に受け取ればいいものを、あからさまな嫌悪を顔に出しそんなことを言う。
「はぁ⁉ 人がせっかく祝ってあげてるってのに、何その態度!」
「お前こそ祝うって顔かよそれ⁉」
最近は半分諦めもあって流していた零士への怒りだったけれど、逆にそれが溜まってしまっていたんだろうか。
久しぶりに大声で言い返してしまう。
そしてそれは零士も同じだったのか、そのケンカ買ってやるとでも言いそうな勢いで言い返された。
でも、そのケンカはすぐに邪魔が入る。
後ろから腕が伸びてきて抱き込むように零士と引き離された。
「え? 何? 永人?」
突然の行動に戸惑っていると、僅かに不機嫌そうな声が耳の後ろから掛けられる。
「他の男と仲良くしゃべってんじゃねぇよ」
明らかな嫉妬に満ちた声に私は更に戸惑った。
「え? ええ? ケンカしてたんだよ? 仲良くなんて絶対してない!」
「そうだ、なんでこいつと仲良くしてるように見られなきゃならねぇんだ? 虫唾が走る」
「それはこっちのセリフよ!」
思わず言い返すと、今度は愛良が零士の袖をキュッと握った。
「……ケンカしてるってのは分かるんですけど、でもそれが仲良く見えちゃうんです。……だから、その……嫉妬しちゃうのでほどほどにして欲しい、です……」
少し視線をそらしながらそう言う愛良は姉の目から見ても可愛い。
零士から見たら尚更だったんだろう。
一気に毒気を抜かれたような顔になり、愛良に向き直った。
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