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「愛良、大丈夫?」
ちらりと見ると、今にも泣きそうな不安気な顔で私の制服の袖をギュッと掴んだ。
「お姉ちゃん……」
か細い声で私を呼ぶ愛良の顔を見れば、男が愛良の知り合いでもないことは明白だった。
それが分かると、今度は私が愛良の腕を掴む。
「愛良、走って」
「え?」
「逃げるよ!」
愛良の返事を聞く前に、私はその腕を引っ張って逆方向へ走り出した。
「なっ!? おい待て!」
男の声が聞こえたけれど、待つわけないでしょ。バーカ。
私達はしばらく走って、男が追って来ていないのを確認してからやっと足を止めた。
二人で膝に手をついて息を整える。
「ハア、ハア……ごめん、愛良。いきなり走って……」
少し息切れが治まってから謝る。
あの場は仕方なかったとはいえ、突然走り出してビックリしただろう。
「ハア、ハア……いいよ。驚いたけど、あれで良かったと思うし……」
そんな会話をして二人とも息が整うと、また変なのに絡まれないうちに家に帰ろうという事になった。
と言っても、そのまままた同じ道を通ったらあの男が待ち伏せているかもしれない。
だから遠回りにはなるけど別の道を通って家路についた。
そして無事家には着いたんだけれど……。
「誰、あの人?」
家の前に男の人が立っていた。
さっきの男じゃない。
あいつは私達と同年代くらいだったけれど、今いるのは明らかに成人を越えている大人だった。
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