1.妹が吸血鬼の花嫁!?*不審なイケメン

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「逃げても無駄だ」  でもそんな声は無視する。聞く必要もない。  なのに私達は走り出すことが出来なかった。  いつの間にかすぐ目の前に男がいたから。  は? 何? どうなったの?  どうして一瞬前まで数メートル離れた場所にいた人間が今私達の目の前にいるの!?  ただただ驚いた。  どうして? と何度疑問を浮かべても答えなんか分かるわけがない。  出来たことといえば、男を警戒して数歩後退りするくらいだ。  そんな私達――いや、愛良に男は右手を差し出す。  すると大真面目な顔でこう言った。 「お前は特別な血を持つ吸血鬼の花嫁だ」 「……」 「……」  沈黙が落ちる。  は? コイツ今何て言った?  吸血鬼? 花嫁? 聞き間違いだよね?  だって、そんな非現実的なことこんな真面目な顔して言う事じゃないもん。 「だから俺と一緒に来い」  そんなこと言ったって愛良は渡さないよ!  なんて思っていたら背後から近付いて来る足音が聞こえ、声が掛けられた。 「ストップ、零士(れいじ)。勝手なことばかりして先走るんじゃない」  軽い口調だけれど、何となく威圧を感じる声音。  家の前にいた男性の声だ。やっぱりこの二人知り合いだったんだ。  って! まずい、挟まれた!  逃げ場がないじゃない!  愛良の手を掴んだまま焦り始めた私。  そんな時、ガチャッという音がして聞きなれた声が後ろの方から掛けられた。 「あら? あなた達帰ってたの?」  思わず振り返ると、家のドアを開けてこっちを見ているお母さんがいた。  見知らぬ男二人に挟まれている娘達を見ても、お母さんは平然としている。  もうちょっと慌てるとか不審がったりしないの?  ってかしてよ!  ある意味呑気そうにも見えるお母さんに突っ込みたくなる。  でも、お母さんは平然としたままこう続けた。 「帰ったなら早く家の中に入りなさい。田神(たがみ)さんもどうぞ」  一瞬田神って誰? と思ったけど、お母さんの視線の先と“さん”付けしたことから、私達の背後に立っていた男性のことだと理解した。  あれ? 知り合いなの?  え? 何これ、どういう状況?  軽く混乱しながら愛良と顔を見合わせると、私と同じように“訳が分からない”と言った表情をしている。  狐につままれた様な顔って、多分こういう顔のこと言うんだろうなって思った。
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