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1 別れの日
「オムレツを作るわ。哲ちゃん、卵買ってきて」
百合子はキッチンの戸棚からフライパンを取り出しながら哲哉に言った。何かの踏ん切りがついたかのような、そんな声だった。
「いっつも急なのな」
哲也はぼそっと言い、それでもソファから立ち上がった。
「いいじゃない、最後なんだから」
「はっきり言うなよ」
「ほら、とっとと行く」
「へいへい」
フライパンを叩く百合子に、哲哉は渋々スニーカーをつっかけて外に出た。
百合子と出会ったのもこの季節だった。四年は長すぎたのかもしれない。何かの結論を出さず、ただ一緒にいるような年齢ではなかった。唯一出した結論が、別れだった。
スーパーで卵のパックを買って店を出た所でバイブレーションをポケットに感じ、哲哉はスマートフォンを取り出した。百合子からのメッセージだった。アカウントはこのままにしておくべきなのだろうか。
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