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「まる鈴さんで、良さげなロゼのスパークリングもお願い」
万事こんな調子で、百合子のイニシアチブで事が進むのが二人の常だった。それを哲哉も楽だと思っていた。甘えていたと言ってもいい。年長の兄姉がいない哲哉には、三つ上の百合子は姉の様でもあり、それが心地良くもあったのだ。
「ロゼのスパークリングって、予算オーバーだよ」
哲哉が返すと、すぐに、
「何よ、ケチんぼ」
と返っていた。こういうやり取りも、もう出来なくなる。
嘆息して、哲哉は行きつけの酒屋「まる鈴」の暖簾をくぐった。
ここは昔からある町の酒屋を三代目の大将が今風の内装にリノベーションして、洋酒も充実させた店だった。百合子と来ることが多く、彼女が「哲ちゃん、哲ちゃん」と呼ぶので大将も覚えてしまい、以来「哲ちゃんさん」と呼ばれていた。大将の酒の見立ては流石なもので、百合子もすっかり気に入っていた。
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