3人が本棚に入れています
本棚に追加
2 オムレツ
百合子が作る料理はどんなものでも美味しかった。手の込んだ料理も出来るが、寧ろシンプルなもので美味しさを感じる事が多いように哲哉は思っていた。哲哉も独りが長いから料理はできるが、適当にやってしまう。それでも百合子は、不味いとも言わずにいつも哲哉の料理を食べてくれていた。
「見てていい?」
哲哉はガスコンロの前に立つ百合子を、据え付けのキッチン・カウンターに身体をあずけて、窺うように見た。
「いいわよ。最後だしね。しっかと眼に焼きつけておきなさい」
「なんだそれ」
構わず百合子は哲哉が買ってきた卵をパックから取り出し、銀色のボウルに割っては入れて行く。
「卵って、恋愛に似てるわ」
ちら、と哲哉を見る。「一度壊れたらもとには戻らない。殻は離れ離れ」
卵を三個ほど入れ、塩と胡椒を少々入れると、器用に菜箸でかき混ぜ始める。
最初のコメントを投稿しよう!