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3 食事のとき
シンプルな白い丸皿に、綺麗な楕円形のオムレツが盛りつけられている。百合子は流行りのふわとろ系の作りをしない。上品にすっと、焦げ目もなく黄色いアーチが出来上がり、さっとケチャップがかけられて鮮やかだった。
「さ、食べましょ」
片づけまで終えた百合子が席につくと、哲哉は「まる鈴」で買ってきたロゼのスパークリング・ワインを開け、二人お揃いのグラスに注いでいった。とととと、と良い音がし、炭酸の弾ける音が続く。
「綺麗ねぇ」
百合子は吐息とともにテーブルに頬づえをつき、薄紅色の液体の中で立ち昇る細かな泡を、暫し見つめていた。顎の線が綺麗だと、哲哉は改めて思った。
「予算ではこれがギリ」
「充分じゃない?」
百合子はこくん、と頷いて哲哉を見る。
哲哉は何となくほっとして、百合子の向かいに腰を下ろした。
「食べよう食べよう」
百合子が言い、二人は揃って「いただきます」と言った。グラスは合わせなかった。何かに乾杯する日ではなかった。
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