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陽射しが差し込むダイニングには、暫く食器の音、細身のシャンパングラスを持ちあがる時に微かに聞こえるガラスの音だけが聴こえていた。
低いボリュームでモーガン・フィッシャー の『都市生活者のための音楽』が流れている。哲哉も百合子も好きな一枚で、こんな午後にはぴったりn一枚だった。哲哉がデザイン会社に勤めていた頃に、先輩から教えてもらったものだった。タイトル通りで、仕事をしている時にも邪魔にならない曲が続く。
食べ終わるのを惜しむかのように二人ともゆっくりとしたペースで食を進めていたが、オムレツはオムレツだった。百合子の食事する様を見ていた哲哉よりも先に百合子は食べ終え、「ごちそうさま」と手を合わせた。落ちてきた髪を耳にかける仕種が哲哉は好きだった。どうしてこんなに好きな所ばかりで、別れるという決断をしたのか、束の間哲哉は分からなくなった。
哲哉も食べ終え、暫くやはり無言でスパークリング・ワインを愉しんだ。ちょっとした儀式を執り行ったような、そんな午後だった。
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