3人が本棚に入れています
本棚に追加
4 別れの時
モーガン・フィッシャーは終わり、今はアントニオ・カルロス・ジョビンの『ストーン・フラワー』が流れていた。これは百合子が好きでよく聴いていたものだ。
リビングに射す陽射しも傾き、ボサノバが心地よい時間帯になっていた。
窓の傍のソファに二人並んで座り、窓から見える公園で遊んでいる子供たちを眺めた。
「まる鈴の大将、元気だった?」
百合子がキャッチボールをしている子供を見て哲哉に訊いた。
「暫く行ってないっけ?帽子が変わったくらいかな、メジャー・リーグのに」
「宗旨替え?セ・リーグじゃなかったっけ」
百合子が笑った。
「流行には敏感なんじゃない、あぁ見えて」
「あぁ見えてって」
また百合子が笑う。こんな時間をあと少し、過ごしていたいと哲哉は思う。
別れが先か、出会いが先か。
先ほど百合子が小さく言った言葉を、哲哉は反芻する。
「ブラジル行きたいな」
最初のコメントを投稿しよう!