第一章 出会った声に萌―  第一話

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第一章 出会った声に萌―  第一話

朝四時。 「おはようございます」 「おはよう、お願いね」 「行ってきます!」 小学六年から始めた新聞配達、それも一般紙じゃない。だって、数が多いのと、バイクか自転車に乗れないとお断りだって、だから知り合いの人に祖父が頼んでさせてもらっているとある宗教団体のものだ。 月に二万円ほどだが十分だった、今じゃ新聞も取らない家庭が増えているから取ってくれるところは貴重だ。二時間町内とその周りを配って歩く、走るというより歩いている、ちょっと駆け足の朝の散歩ってところかな? そろそろ配達も終わる、その時に現れるおばさん。ご苦労様と言いつつ、いつも宗教団体に入れと誘われるが今はまだいいと断り続けている。 そんなに不幸に見えるのかな? 学校の帰りとか、なんか家にいるとそんな勧誘が多く来る。 このおばさん、独り者で、話し相手がほしいのか、毎日声をかけてくる。学校があるからというときは、これ食べて行きなさいとかいろんなものをくれる。面倒見はいいし、食べさせてくれるし、心が揺らぐときもあるけど、まだ考えられない。 まあこの叔母さんはまだいい方。 強引な勧誘を迫るところには、腕が生えたら考えるとか、三食昼寝付き、住むところありならやるとかそんなことを言うとだいたいが引く、この左手を見せればいいだけだしね。 それでも本気なのか私から見て変なところは警察を呼ぶ。まあ、大体これで次からこなくなる。 今日も今日とて、おばさんにおにぎりを二個いただきました。 制服に着替え、カバンを持って出発。 いつもの通学路、その先にあるコンビニの大きな窓ガラスには、かわいいアニメキャラクターのポスター。 「お、発売日、よし、一週間待て、ワン!」なんて言いながら、大好きな本の発売日をチェック。一週間?フフフ、古本屋に並ぶのだよ、それを狙っているのだ―。 春、テレビはいろんな番組が編成を終え、新番組がひしめき合う、さて、何を見ようか。大好きな声優さんに丸印。 特大号と書かれるテレビの番組表の雑誌。購入は年二回、春と秋。 そしてお金のない私は、立ち読み、購入は古本屋で仕入れるのだ。 ただそれも今じゃ変わってきていて、一月と八月なんていうのも出てきて、買おうかどうか迷ってしまう。 まあ今はテレビにも番組表は出るわけで、時間があればせっせとチェック! 深夜。 それは私にとっての唯一無二の時間。 テレビ番組表のアニメは赤く色づく。 録画機能はない。 どだ! 私は、寝る準備をして、クッションを抱え、イヤホンでその声を自分の恋人のように……。   “君の事が好きだ!” 私も…… キャー萌です! 真夜中、こんなことで騒いでいる私は、高校三年生、今年一年、進学に就職、そんな漫画ばかり見てどうするのって普通の子なら言われるんだろうけど。ちょっと変わった家庭環境。そんなの言われないから、言われたこともないし。でもね、これから先のことはいろいろ考えてますよ、多分普通の高校生より。 でも今は、テレビの画面に釘付けです。 “俺のものになれ!” キャー!いわれてみたいですー。 この頃は、アイドルゲームやら何やらで、大好きな男性声優さんがわんさか出る番組が多くて、もう、悶えっぱなし。 あの人も、あのお方も等、等々、トゥス!とまあ上げたらきりがない。男性声優さんみんな好き! もう誰でもいい、恋人になってぇー! 声のいい人って歌を歌ってもうまいから、もう親友に頼んでダビングしていただきまくりです。 それにユニット組んでる声優さんもいるから、もうチョイスしまくり―! まあ、いいよね、あと一年、何とかなるよ。 今までも、何とかなってきたしさ。 なって、きたよね……。 きたと思いたい……。 “愛してる、また会いに来てね” 終わったー、余韻に浸りたくてすぐにイヤホンを外し、クッションに顔をバフン、視界、聴覚はすべてさっきの彼のまま。テレビをやっと消すがクッションからは顔を上げない。 ふっふっふっ、自慢ではないが、つい最近まで、ブラウン管テレビを使っていた。 この液晶テレビは貰い物だ。 金のない私にとって無駄なことかもしれないが、買うという行為は最小限でなくてはならないのだよ。 顎に手を置き、コナンやシャーロックホームズのマネをするが誰もいないっちゅうねん! さて一人突っ込みはこれぐらいで。 電車に乗って学校行くぞ!おー! 電車って案外みんな自分の事しかしていないから、私の手の事をいう人はほとんどいない。 いるのは新入学の私立の小学生の男の子。興味津々で手をじっと見る子や、大きな声で聞いて来る子など。そんな時はちゃんと教えてあげる。大人の方が冷たい眼で見ているんだよね、そっちが嫌になっちゃう。
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