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第二話
昼休み。
「あんたそれだけ?」
「十分じゃん」
もらったおにぎりと出した水筒の中には暖かいお茶。
「さみしいな、はい、どうぞ」
「ありがとう」
「何だかな、これも食え」
「うー嬉しいです」
蓋の上に乗ったウィンナーと卵焼き。
「あんたさ、この間のバイトの面接は?」
「ああ駄目だった、ついでに違うところも行ったけど、やっぱりだめ、きもいってさ」
モグモグ食べながらその話をしていた。
「そうか、やっぱり駄目か?」
なかなかいいところはないねー、やっぱり無理なんだよ。
「あのね、あんたが悪いんじゃないからね、見る目がないんだ、まったく、あんたも自信もちな!もう!今度面接行く時はついて行ってやる」
「いいよ、一人で」
雑誌を見ながらニタニタ。
「はー、本当にいいのね?」
言いも何も。
「その人好き?」
「声ね、あー、そういえば、ねえ、ねえ聞いて、聞いて?」
また始まったというような顔つき。
「聞いてあげる」
「耳だけ貸す」
ありがとうと頭を下げた。
「とうとうわが町にも、美声を見つけた!」
「美声?あんたの好みでしょうが」
そんな何処にもいそうで、どこにもいる少女が、ぬわんと!恋をしてしまったら、どうする、ねえ、あんたならどうする?
「高々声でしょ」
「宮野っちと諏訪っちをたして二で割って徹也をかけた声」
「どんな声じゃ」
「オヤジっぽくなくて、ハード系でもなくて、甘いんだけど痺れる?」
「わからん」
どこにいたって?
チュウチュウとパックの苺ミルクを飲みながら聞かれた。
「ぬわんとー!二丁目のニチ丸に決まった時間に出没するのだ――――!」
はあ、はあ。
「そんなに力入れなくても」
「でもね、すごいんだよ?」
「何がすごいのよ」
ちょい、ちょい、と顔を寄せる。
「やっちゃんかも」
まさかー?いない、いないあんな所。
あー、ウソじゃないもん。
キーンコーンカーンコーン
「予鈴、予鈴、また明日聞いてやるから」
「えー、後生だー」
「ちゃんと晩御飯食べるのよ」
「はーい」
午後の授業が始まった。
あれ?そういえば、自己紹介まだ?
話に夢中になりすぎた。
改めまして。
佐々木亜矢と申します。
158センチ、体重は内緒、顔は、まあいい方だと思っている、だって、それなりに声はかけてもらえるもん。
ただ問題があるけどね。
小さい時、まだ小学校に入る前?いやいや、赤ちゃんの時らしいけど、何せ覚えてなくて。母親がつきあっていた男性に殺されかけそうになって、その男に手を切られたそうです。左手の手首から先がありません。聞き手じゃなくてよかったと言われましたが不自由なのは確かです。母は寂しがり屋で、男の人を取りかえるように連れてきていた見たいです。そして、母も男の人に殺されそうになりました、その男が私の手を切った人と同一人物かはわかりませんが……。
母は病院に運ばれて、二年、植物状態で生きましたが死んで、私は祖父母に育てられました。
父親は知りません。
犯人の記憶もありません。
もちろん母親の記憶…… これはなんかありそうな、なさそうな……。
私の記憶は、ちょっとのお母さんの記憶とおじいちゃんに手を引かれ、今の家に来た時の記憶。そして小学校五、六年生からの記憶しかありません。
そんなんで!
犯人となった男の親戚とかという人たちからお金をもらったりして何とかやってきたらしいのですが。何せよくわかりません。
威張っていうほどのことじゃないと思うけど、知らないものは知らないし、教えてもくれないからもういいのです。
お爺ちゃんたちは、無口で笑っているところを見たことがありません。無口だから笑い声も聞きません、話もしません。だからか、私の話し相手に与えられたのはテレビでした。
会話やある程度の情報源はテレビしかなく、しゃべることを知らないで育った私が人としゃべりだしたのが小学校五年生か六年生の頃、そこから私の記憶が始まります
文字を覚えると漫画や料理の本、写真のついたものや、おじいちゃんの古い百科事典が楽しくてなりません。祖父母は、これがほしいと指さすと買ってくれました。その世界に浸れる私だけのものだったんです。
同じ家なのに、玄関は別と言うか、住むところも仕切られていて、私はずっと一人暮らしをしているのと同じでした。誰もいない、ただ壁一枚挟んだ向こう側からテレビの音だけが聞こえていた。具合が悪くても、知らせることができず、学校からお爺ちゃん家に連絡が来て、やっと看病してもらったこともしばしば。今じゃ、自己管理で、何もかも自分で早め、早めに対応しています。
この生活が異常だというのを知ったのはつい最近です。母もこんな生活をしていたようです。
高校に入っていろいろ面倒を見てくれた、えっちゃんとノンちゃん彼女達から聞いたのとテレビで情報を得ました。
よく高校へ入れたねといわれますが、頭はそれなりにいいようです。
でも普通というのがわかりません。私の普通と他人様の普通はどうも違うのだというのをやっと知ったのです。
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