58人が本棚に入れています
本棚に追加
/95ページ
第二話
隅田川の花火大会ではないものの、この辺も大きな花火大会はある、そして、その日は、彼のマンションの屋上で、住民と花火を見るのだ。
長年ここに住んでいても夜は家から出ることはなかった、音は聞いていたけど、花火って人がいっぱいいるイメージしかなくて、でも、去年は楽しかった。
初めての花火大会はめちゃくちゃ楽しかった。
今年もそれをするのだ。
このマンションのオーナーは社長、でも管理組合は、個人企業には貸せないと言ってきた。
誰が言ったかわからないが。だったら、住民の皆さんも一緒に混ざればいいんじゃないんですか?その一声がきっかけで、マンションの住民参加のお祭りとなったのだ。
花火を見るのは屋上だから、子供から目を離せないし、飲食禁止だし、集会場を借りて、慰労会と称して飲食ができるようにしませんかという案が通り、借りるために話をしに行った。
「さて、マンションの組合はよし、道具は、それなりに用意できるから」
「こんにちは」
「こんにちは、おねえちゃん、お祭りするの?」
「うん、今年は雨が降らなきゃいいね」
「テルテル坊主いっぱい作るね」
「お願いね、奥様もお願いします」
なんて頭を下げ子供たちは何をしているのと集まってきていた。
主会場に飾りつけをするのだ、殺風景だからお祭りの提灯とか、少しずつ準備していたのを運んでいるんだ。
去年、浴衣を着させてもらった、初めてで、下駄だと足が痛いからと、サンダルもかわいいものを買った。
お古だけど、かわいいものをいただいたんだ。
ただ、花火が終わりそうになるころから雨が降り出しちゃって、まあ天気も悪かったんだけどね。それでも何とかやりきったんだ。
びしょ、びしょになって動き回った。
でもあの日を思い出すと体が熱くなる。
「亜矢こっちにこい!」
社長に呼ばれてそばに行くと、これを着ろとはっぴを渡されたんだ。
えー?こんなの着たくないと言ったら、窓に体を向けられた。
窓ガラスに映った自分を見て恥ずかしくなった。
体の線が、濡れたせいではっきりわかる、下着の線とかが浮いてるんだ。
社長の背中に隠れるようにしてすぐに着た。
みんなが帰り始め、社員たちも早くかえした。
雨は強くなっていく。
集会所のほうも明日にでも片付けましょうということになり、鍵が閉められ、みんなが慌てて帰っていく。
私も帰らないと。
社長に手をつかまれ、引っ張られた。
抱かれた腕の中、あったかいー。
「風邪ひく、ふろに入らないと」
「あの、帰ります」
そのまま雨の中に二人出ていた、手を引っ張る社長、それに引きずられるように社長の部屋に入った。
ドアを閉める、向かい合う二人。
抱きしめられ、キスをした。
もうそのあとは恥ずかしくて言えない―、お風呂も一緒に入っちゃったし―。
「お姉ちゃん、大丈夫?」
「え?ああ、ごめんね、明日楽しみだね」
こんな時に反芻するなんて、馬鹿。
最初のコメントを投稿しよう!