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第四話
「オー、そうか、交通事故か、残念だな」
「でもおげんきでしたよ」
「ああ、声も聞けて良かったよ」
「それでね、これ、開かないよ?」
「うん、これを持って、ばあちゃんの所に行こうか」
おじいちゃんを連れて、おばあちゃんのところへ、おじいちゃんはその箱を渡すとおばあちゃんの手をなでた。
ふってみている。
「え?」
「ハー、凄いな」
手を添えると、それを動かしはじめた。カタンカタンといい音がする。
これ、このまま開いちゃうんじゃない?そう思った。
え?
アー(´Д`)ダメか。
そのままそこに置いてしまった。
「ダメか」
「無理だよね、でもすごいな」
その箱をとろうとした。
パチンと手を叩かれた。
「あゆみちゃん、これはお母さんの、ダメって言ってるでしょ」
「おばあちゃん」
「・・・」
「あゆみか、わかってないんだろうな」
母の名前を言った、おばあちゃんはたぶん母の事をこうして怒っていたんだろうな。
そう思ったら、後ろからおばあちゃんに抱き着いていた。
私の左手を擦る(さする)。涙が溢れた(あふれた)。
他の手紙は、あて先をかいて送ってくれと言う、もしかして戻ってくるのもあるかもしれないから、私のところの住所を書いて出してくれと言われた。
書類の入った袋から、おじいちゃんは住所の紙をよこした、名前は入っているからと言って。
「これを、君に託したい、お願いできるかな」
「拝見させていただきます」
紙袋の中を見た。
「わかりました、御意向にお答えさせていただきます」
「頼むよ」
「それと亜矢」
「なに?」
「カフスボタンは、彼にあげたらどうだ?彼なら使いこなせると思うぞ」
「うん、なんかすごいね?ダイヤみたい」
「そうだな」
それを亜矢から受け取り、今着ているものにつけてみた。
「やはりな、忠典さん、それも頼めるかい?」
やはりそうか、わかっていらっしゃるんだな。
「はい、ではそろそろ、またまいりますので」
「また来るね、おばあちゃん、また来るね」
外に出たときになにを預かったのか聞いた。
「遺書?」
「うんちゃんとしたものだ、それと、本の著作なんかだな」
「ふえ~、おじいちゃん、金持ち?」
「そうでもないんじゃないかな、研究ばかりしていて、散財していたんじゃないだろうか」
「そうか、お金なさそうだったもんな」
「さあ帰ろうか、どこかで食べて帰るか」
「やった-おごり!」
「おごり?あ、財布もってきてねーや」
ポケットをあちこち叩いてるー。
「エー、電車賃とかお土産で使っちゃってないよー」
「フッ、俺がそんな間抜けなことをすると思うか?」
フルフル、首を振った、美味しいもの=高いもの、どこにつれていってくれる?
「カーッうめー、何でも好きなの頼め」
ブー、( `ー´)ノ!何よいつもの居酒屋じゃない、それにサービス券、いくら倹約家でもそれはないわよね。
「あきたー」
「何がだよ、兄ちゃんもう一杯くれ」
「私カシスソーダ」
「なんだよジュースか」
「ふん!(アルコールじゃ)いっぱい頼んでやる!」
「頼め、頼め、こんだけあるからな」
ポケットから出した、サービス券は、アルコールのただ券に、お食事無料券、ポイントまで「いつの間に!お願いしまーす」
俺はずっとカフスボタンを見ていた。
ふらふらといい気分で彼のもとへ帰った、当たり前になっていた、彼のもとへ帰ることが。これは契約、たった一年だけの。
その日はとても幸せで、この幸せが、これからもずっと続けばいいのに。隣で眠る彼の顔、髪、一つ一つのパーツが、ととのっていて。体、腕、手、恋人つなぎ、いいよね、今だけ。
体はもう何度となく合わせてきた、大人の人のリードだもの、私は気持ちいいだけで。
もうすぐ、離婚・・・。
お飾りの夫婦生活は終わる。
終わる・・・。
「亜矢、寝ろ」
気にも留めていない声がいつも励ましてくれた。いつしか心地よくて、私の中で一番になっていて。
離れたくないと思ってしまったら、胸の奥を針がさすようにチク、チクと痛かった。
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