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第五話
十二月、相変わらずにぎやかな食堂。
みんなが帰り始め、一人になった。ノートを広げいつものように書き始めた。
私はこの先もここにいてもいいのだろうか?それより、何も言ってこないぞ?
「どうした?」
隣でご飯を食べている彼に声をかけられた。
手が止まっている、考え事か?と言われた。
「ん?お茶入れる、コーヒーがいい?」
「お茶でいい」
「あのさ、クリスマスイブの日、夕方アパートに行ってくるね」
「なんでだよ」
「ほら、おじいちゃんの手紙もあるし、もしかえってきてたら早く言わなきゃ、それに買い物したいし」
「あー、あれから行ってねーのか、部屋の中郵便物でいっぱいかもな」
「DMばっかりだろうけど、はいお茶」
「はーくったくった、さてもうひと頑張りしますか」
「先に帰るよ」
「おう、年末だからな気おつけろ」
チュッ。
煮魚のにおい。
「もう」
「じゃな」
外に出るとスマホがなった。
「どうかしたか?」
「鑑定してもらった、台の裏に何か暗号のようなアルファベットが入っているそうだ、それでな、驚くなよ、あれ、本物だそうだ」
でかいダイヤモンド、一個でうんぜん万、一介の警官が買えるだろうかと、腕を組んで考えているのが目に浮かぶ。
「まじで?でも一般人でもあんなもの買えねえだろう?」
「だが、盗んだとしたらどう思う?」
「盗んだ?三国か?」
「いや解散したほうだろう、そっちは調べる、これはどうする?」
「悪い」
「そうだろうな、預かっておく、時計もな、なんかわけがわからないらしい、動かないんだとさ」
「それも頼むわ」
「また何かわかったらすぐに知らせてくれよな」
「おう」
さて、仕事に行くか?
深夜、ギッとベッドがきしんだ。
社長は私の事をどう思って抱いているのだろう。何もしてないよ、ただ抱き着いて寝てるんだ、抱き枕かよ、なんて最初言ってたけれど、今は…。
好き?
それは私だけのような気がする。
家族にはなれない。
一年の限定期間、もうやめてと言おう。私から誘ってしまったのかもしれないけれど、この関係はよくない。
だって、社長の隣にはもっときれいな人が並んで、こんな腕のない。もう嫌だ、考えれば考えるほどみじめになる。
実はつい最近、会社にきれいな女性が来た。彼とは仲がいいのか、私には見せない顔で笑っていた。
誰なのか聞いたらお見合いの相手だったという。
お見合い、そっか―。
忠典さんの腕にからみつく真っ赤なマニュキュアを付けたロングヘア。
嫉妬。
たぶんそうだ、彼女の方が年が近くて、話も会うだろう。
何と言っても、Tシャツに割烹着、エプロンをつけた私と、高そうなワンピースにハイヒール、化粧もして、アクセサリーも上品な物を付けて、社長夫人ってあんな人なんだろうなって思った。
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