第四話

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「それじゃあお願いします、お疲れ様でした」 「お疲れ様です」 急げ―、時間だーぞー!ただいま今自転車をこいでおります。 自転車?のれるの? 乗れたんです、ママチャリ、買ってもらいました。なんか夢のようでうれしかったです。 えッちゃんたちにも見てもらいました。 二人は私に抱き着いて喜んでくれました。 「遅くなりました」 「花ちゃんママ、義理セーフっす」 「やり―、ねえ見た、昨日の」 「見たッす、いいっすね。キャラ、ちょーかわいいっす」 「んん―、小林君、何を見たのかなー?」 「橋本先生、いつもありがとうございます」 「井上さん、あんまりこんなこと言いたくないですけど、深夜番組、みんなが見る訳じゃありませんから、あんまり進めないでいただけますか?」 「すみません」 「小林君も、いい、遅刻したら、減給ですからね」 「はい!」 ごめんねと言いながら、平謝り。 「花ちゃんお待ちかねですよ」 「はい、ありがとうございます」 部屋に入ると、こっちを見た。 「かあちゃ!」 「花―いい子だったね、帰ろうか」 この保育園は時間で見てくれる、朝九時に預けお昼の一番忙しい時間を終え、三時には、迎えに来る。少し大きくなったら、八時半の四時までになる、会社みたい。 半年はお休みさせていただきました。花ちゃんを背負って、仕事をしたのよ、えらいでしょ。 どうしても無理な時は、社長室で、預かってもらう時もある。 今彼の部屋の隅には、彼女のベッドが置いてある。 そして、今一番大きな変化は、そう、彼が早く帰って来ること。 典道くんは大学三回生、あー三年生だ、どうもじいちゃんが関西の大学だったからかこういうのよね。 ちょいと雑学、京都大学が東京の大学に差をつけるためにこういったらしい。もし二年生を落第したらもう一度一年生だよね、東京はそういう。だけど、関西は、二回生というんだって、落第しても二年生という事だ。 典君はここから通うも、バイトとして、相変わらず彼の下で働いている。 「ただいま」 「ただいまーいい匂い」 「お邪魔します!」 彼は新しい秘書とともに遅くても八時には帰ってきて、一緒に食事をとるようになった。 仕事は、任せられる人材が育ってきたこと、もうがむしゃらに突っ走る必要はなくなったからだ。 緒方さん?彼はやめてないよ、彼は秘書課のトップにいて、会社を切り盛りする方に回ったのだ。 私も今は、八時で上がらせてもらっている。最後の戸締りは任せている。 「では明日の予定をかきましたので、帰らせていただきます」 「おつかれさん」 「おやすみなさい」 帰りはあの日からずっと送ってもらっている。自転車は会社でだけ使っているのだ。 お風呂に入り、仕事があると、部屋に入った彼を見送り、私は 「今日は、これ、花ちゃん一緒に見ようね、かわいいよ、ドレミちゃんだって」 小学校の時、見ることのできなかったテレビ番組を今こうして娘とみている。 うれしいな。 「バーバー」 「ほら、魔法だよ」 「キャー」 「わかってるねー」 うるさいかな、少し、音、絞る! 楽しい音楽が鳴り始めた。 「おっ!忠典さん!おとうちゃん―来て、来て!スマホ、スマホ、花ちゃ~んこっち見てー」 音楽に合わせて、つかまり立ちしていたのが手を放しました。 「なんだ?オー、俺もスマホ!」 「何?騒がしいなー、オー、ぐっとタイミング、花ちゃんそのまま~」 みんなで撮影会、花ちゃんがたっちしました、足をぎゅんぎゅんしゃがんだり立ったり踊っているみたいです。 「お、ダメか?座るか?」 「アー、座っちゃったー」 「すごいなータッチしたのか―」 「とうちゃ、キャッキャ!」 〈アフー〉 「眠いんじゃないのか?もうこんな時間、早く寝かせろよ」 「わっ、なんか興奮しちゃって」 「すげ、アイドル半端ないです」 「何、何?」 と典君のスマホを覗こうとした。 「あ~や―、早く寝かせろ!」 「はーい!」と口をとがらせ、花ちゃんを抱っこ。行くと見せかけて。「なに?」ともう一度覗いたら睨まれた。行きゃいいんでしょ行きゃあ。後ろで「みて」という典君の声。 「かわいいもんなー」 「親ばかだよ」 「いいんじゃー、嫁になんか出さねえからなー」 「はい、はい、俺勉強、おやすみ」 「おう」 その会話に笑いが出てしまった。ポンポン、ねんねしましょうねー。 寝そうか? もうちょっと。 ベッドで彼はスマホを見ていた。 「なに見てるの、わー凄い、もえーだ」 びっしり撮った我が子の写真。 「いいね、アイドル」 顔がほころびっぱなし。 彼だけじゃない、おじい様もそうだ、女の子がいない家系に咲いた花は、みんなから可愛がられた。 「なあ」 「なに?」 「後二人ぐらい平気?」 「そりゃほしいよ、兄弟は多い方がいいもの」 「よし、それじゃあ合意と言うことで、チュウして」 「いいよー、はい、チュー、ねえ、名前呼んで?」 「亜矢ちゃん」 「ダメ―、まじめに、いい声でお願いします」 「よし、いい声―」 「真面目に―」 「もう、わがままだな」 頭を抱き寄せて、耳元でいう、彼の息、体温、そして……。 「亜矢」 ぞぞぞー そのままお返し、超色っぽい声で 「忠典さん」 「萌―」 「きゃー」 ただいま絶頂幸せ~萌え萌え、チュウでーっす!
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