目覚めたあとに……

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目覚めたあとに……

「また……」  私は、眠い目をこすりながら、呟いた。   微かに目を開けて、ベッドの上から、窓の外へ目をやると、案の定、シトシトと雨が降っていた。部屋の時計は、朝の5時を指している。シトシトと降る雨音と時計の秒針が、私の耳には、うるさいほどに聞こえてくる。  私、若草 光希(わかくさ みつき)には、初恋の幼馴染がいる。幼馴染といっても、実在するわけではない、と社会人になった今の私は思っている。いや、自分自身に、そう必死に言い聞かせているのかもしれない。なぜなら、私が眠りについた時に、夢の中でしか会えないからである。それも決まって雨の日なのだ。  今日も、私と『彼』は夢の中で会っていた。  雨の日にみる夢の中の『彼』のことを認識したのは、いつの日のことだっただろう。物心ついた頃には、私の生活の中に、『彼』は存在していた。  幼い頃から時間を共にして、幼稚園、小学校、中学校、高校、大学、社会人と『彼』も私と同じように、時の流れを経て、少年から青年へ、そして大人へと姿かたちも成長している。    いつの間にか見上げるようになった『彼』の身長、優しく包み込んでくれるように少し低めに響く『彼』の声、鍛え上げられているのが垣間見れる『彼』の胸板や筋肉のついた腕、大きくて守ってくれる安心感を感じ抱きつきたくなる『彼』の背中、男の人を感じる大きな『彼』の足。  そう、『彼』の全てが、私の理想の人そのものなのだ。私は、自分より背が高い人が好みだし、低めの声も男らしくて良い。筋肉ムキムキではなくて、適度な細マッチョくらいに鍛え上げられてる人がカッコ良い。そして、何より、守ってくれる安心感を感じる包容力がある人が良い。全てが『彼』に当てはまる。    どんな人がタイプか聞かれると、真っ先に脳裏に浮かぶのは、『彼』のことだ。
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