血圧下がった

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「最近スランプやねん」 僕は言った。 「何がスランプなんよ?」 基子は訊いた。 「なんでかわからないよ。」 「射精しすぎちゃう?」 「まさか。そんな元気ないよ。やーる気がないーだーけさ!」 「じゃあ、休んだら?」と基子は言った。 「そうだよな。そう思うんだけど、何もしないのが手持無沙汰なんだよ。  なんかやりたいじゃん。俺、男だし」 「じゃあ、小説でも書いたら?」 「だから、今書いてるじゃん。よく見てよ、ダーリン」 基子は頷いた。 「お、最近、ドラマ見てるんだぜ」 「へえ、どんなドラマ」 「なんか『となりの銀河』って言うんだよ、その主人公が可愛くてね(笑)」 「なるほど、その子を目的に見てるんやね」 「そ、そうよ。名前が八木莉可子っていうんだ。身長169cm、抱き応えあるある」 「何よ、私の方が背が高いやないの。私を見捨てる気?」 僕はあわてて、 「いやあ、基子には及ばないよ、うん、そう・・・」 「どんな話?」 「どんな話かここに書いちゃうとN●Kから文句くるからね。 でも、今、聴覚障碍者のために『字幕放送』があるじゃん。あれ見てると 主人公の台詞には黄色、副主人公には水色、て分けて表示されるんだ。 それでみてみると、どうも八木莉可子は副主人公らしいね」 「ほんま?どれどれ番組表を見てみよう」と基子は探した。 「たった15分やないの?」 「あかんか?」 基子は話題を変えた。 「そらそうと、寅さんまた再放送開始したね」 「ええな」 「私、寅さん、じゃなくて渥美清さんが、結婚に至る『泣いてたまるか』の「ある結婚」 のほうがええわ。」 「なんで?」 「だって寅さん=渥美清さんがめでたく結婚するもの」 「いいよねー、嬉しくなるよ」 二人がまだ炬燵にあたってみかん食べ乍ら喋っているとき 奥から良太が歩いてきた。 え?僕と基子には子供がいるんだよ。 良太は小学校3年だ。 「パパ、ママ」 「なんだい坊や、はっ倒すぞー!」 すかさず基子が口をはさんだ。 「ちょっとー、はっ倒さんでもええやん」 僕は良太に言い直した。 「よ、勉強してるか?」 「いいや、さっきからゲームやっててん」 「何のゲームや?」 「将棋よ」 「おお、将棋ええやないか。お父ちゃん(つまり僕)よりも強くなれよ」 「うん」 基子が言った。「ここにみかんあるから持って行き」 良太はそれを持って向こうに行った。 僕「お、ユニコーンに女のメンバーおってんぞ。知っとる?」 基「知らんわ。可愛かったん?」 「うん」 「どうせそんな事やろうと思うた。」 「いやあ、演奏もうまかってん。キーボードプレイヤーや」 基子はあんまり興味なかったけど尋ねた。 「なら、ユーチューブでみれるの?」 「おお、Maybe blueのこのバージョンや」 演奏が始まった。 基子は聴き入った。 「まあ、初期ユニコーンって真面目路線やね」 「そやろ?」 「なあ、おまえ俺がシークレットブーツ履いた方がええか?」 と僕はしおらしく言った。   「べつにそんなん履かなくてもええやん。なんでよ?」 「背が高く見えるやん」 「なんや、そんなん、室内でも履くつもり?」 「いいや」 「普通にしとったらええやん。そんなん履いてる方がカッコ悪いで」 「ほな高下駄は?」 「天狗さん?」 「変か?」 「当り前よ。やめとき」 「美空ひばりの子供の頃の映画おもろいで」 と僕は言った。 「ほんま?歌上手いやろ?」 「歌もうまいし、踊りもうまいで。でも古いやろ?」 と基子は尋ねた。 「そら古いけど、新鮮やで」 「あの、帽子被って踊るやつやてろ」 「よう知ってるやん。見たん?」 「写真で見た」 「そうよ」と言って僕は歌った。 「丘のホテルの~赤い灯が~♪」 そこにおふくろが入ってきた。 おかん「あんたら晩御飯食べたか?」 基子「はい」 「オムライスよ」 おかん「そうか。美空ひばり聴いてるんか?」 「そうよ。ええやろ?」 「ええなあ」 おふくろはそれだけ言って 向こうに行った。 「昨日何しとったん?」 と僕は基子に訊いた。 「別に、家おったやん」 と基子は答えた。 「俺、寝る前に瀬戸内寂聴のテレビ番組見たわ」 「あ、尼さん」 「いや、本職は作家やで。本名は瀬戸内晴美っていうねん」 「へえー」 基子は興味なさげだ。 しかし、僕は続けた。 「煩悩を絶つために出家したんだ。でも結局煩悩を絶てなかったん 「恋愛小説たくさん書いてるからねえ」 「おれも出家して小説書こうかな?」こつすぎる」 「コーヒーでも飲む?」 「うん」 基子はコーヒーを挽いてくれた。 気が落ち着く。 「ゴールデンウィークは何して過ごすんだい?」 「私?さあ、旅行に出るのもしんどいし、近くのレストランで美味しいもの食べようかな? 「そらいい。一緒に行こうか?」 「そう?奢ってくれる?」 と基子は嬉しそうに言った。 「なんでおめえ眼鏡かけねえんだ?」 突然言われた基子は 「なんで?あんたかて眼鏡かけてへんやん。あんた元々目悪いやん」 「今日病院行ってきた」と僕は言った。 「あんたのオーストラリア人の友達『びょういん』と『びよういん(美容院)』 の違いが分からんって言ってたな」 「おお、その病院だがな。血圧測ったら124、76だったよ。低いね」 「血圧の薬飲んでるの?」と、基子は心配げに言った。 「おお、ニフェジビン20mgとかいうやつよ。 前はや、血圧160の110もあってんで」   基子「そんな高血圧でよう生きとったな?」 「そらそうと、基子は犬飼ってるね?」 「うん」 「狂犬病の予防接種してるんだろ?」 「そうよ、当り前じゃない」 「俺は一度も行かなかったよ」 「それで、犬は人を噛んだ」 「その通り」 「馬鹿!」てわめきながら基子は僕を殴ったんだ。 「痛、しばくぞ」
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